捕食性天敵ヒメハナカメムシ2種における休眠と越冬

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要約

ナミヒメハナカメムシとコヒメハナカメムシでは幼虫期の短日条件によって雌成虫だけに休眠が誘導される。成虫期には短日に反応しない。この休眠の有無により、雌は越冬できるが、雄は冬季に全て死亡する。

  • 担当:北海道農業試験場・生産環境部・虫害研究室
  • 連絡先:011-857-9280
  • 部会名:生産環境
  • 専門:作物病害
  • 対象:昆虫類
  • 分類:研究

背景・ねらい

アザミウマやアブラムシなど、微小害虫に対する生物農薬としての可能性が注目されているヒメハナカメムシ類(Orius属)は、大量飼育法や放飼方法に関する研究は進んでいるものの、生態に関する知見が乏しく、研究成果が求められている。そこで、日本に広く分布しているナミヒメハナカメムシ(以下ナミヒメと略)とコヒメハナカメムシ(以下コヒメと略)について日長に対する反応および越冬生態を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 22°Cでさまざまな日長条件下で発育した札幌産の2種ヒメハナカメムシ雌成虫は明瞭な長日型の日長反応を示し、ナミヒメの休眠臨界日長は14~14.5時間、コヒメでは14.5~15時間であった(図1)。なお日長に関わらず交尾は行う。また地域個体群ごとに休眠臨界日長に地理的な勾配変異が認められる。
  • 両種とも長日条件下で発育した非休眠雌であっても、交尾できない場合には卵巣の発育が見られない。また、幼虫期を長日、成虫期を短日にした場合、ほぼ死亡するまで産卵を継続することから、成虫期には短日を感受して休眠に入ることはない。
  • 両種とも短日発育雌が長日発育雌に比べて体内に脂質を多量に蓄積しているのに対し、雄ではこのような日長の影響は認められない(表1)。また、低温下では両種とも短日発育雌のみが生存日数が長く、短日発育雄は長日発育雌および雄と同様早期に死亡する(図2)。したがって雄は日長に反応して休眠しないと考えられる。
  • 野外網室で冬季の生存率を調べた結果、4月中旬まで生存できたのは雌のみであった。雄は全て死亡し、大部分は初冬の11~12月に死亡した(図3)。すなわち休眠しない雄では冬季を乗りきることはできないものと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 日長に対する反応の結果は、生物農薬としてヒメハナカメムシを放飼する際の参考になる。
  • 雌のみが越冬して春まで生存できるという観察結果は、Orius insidiosus、O.tristicolor、,O.majusculusなどでも報告があり、ヒメハナカメムシ類共通の特性と考えられる。

具体的データ

図1 発育時の日長と卵巣未発達雌(=休眠雌)の割合との関係

表1 成虫の脂質含量(乾物当たり%)に及ぼす幼虫期の日長の影響

図2 0°C条件下におけるナミヒメ成虫の生存率の変化

図3 短日発育成虫の網室内での冬期生存率

その他

  • 研究課題名:アブラムシに対する生物的制御因子としてのヒメハナカメムシの評価
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成10年度(平成6~10年)
  • 発表論文等:Effect of photoperiod and reproductive diapause in the predatory bugs, Orius sauteri and O. minutus (Heteroptera: Anthocoridae). Appl. Entomol. Zool.,33(1):115- 120, (1998)
    Diapause and survival in winter in two species of predatory bugs, Orius Sauteri and O. minutus. Entomol. Exp. Appl., (印刷中)