農地の熱・水交換係数の簡易パラメータ化手法

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要約

農地のエネルギ-交換量を適切に評価するために必要なパラメータである地表面と大気の熱と水の交換係数を簡易に求める方法を開発した。この方法を用いることで、気象台で得られるルーチン観測データから地温、蒸発量を精度良く推定できる。

  • 担当:北海道農業試験場・生産環境部・気象資源評価研究室
  • 連絡先:011-857-8234
  • 部会名:生産環境
  • 専門:農業気象
  • 対象:
  • 分類:研究

背景・ねらい

農地において地温は作物の生育に影響し、また、蒸発量(潜熱)は、地温に密接に関連する要因であるとともに、農地の水資源や環境容量、あるいは気候学的な評価に重要な要素である。これらの気象要素は一般には測定されていないが、気象台のルーチン観測データから推定することは可能である。これらを精度良く推 定するためには、地表面状態や土壌水分条件に応じて変化する地面と大気の熱と水の交換係数を適切に算定する必要がある。本研究では、日単位以上の時間スケールで適用できる農地の熱・水の交換係数の簡易な算定手法を提示する。

成果の内容・特徴

  • 図1に示す、熱(顕熱)と水(蒸発潜熱)の交換係数について、一般気象要素(日射量、気温、風速、降水量、湿度、地温)の日値から簡易に算定できる新たな手法を開発した。本手法は高精度、高時間分解能の測定が必要な微気象観測(顕熱・潜熱輸送量)を必要としない。
  • 顕熱の交換係数CHUは以下の手順で算定できる。
    a.CHUは降雨があって地表面が十分に湿潤である条件(蒸発効率β=1)の日を選び、一般気象要素の日平均値から、図1のG(0,t)=0とおいた地表面の熱収支式より求めることができる。この方法で求めたCHUを風速でパラメータ化する(図2上)。この場合に必要となる地表面温度の観測値は湿潤時の日平均値を用いるため、地表面付近の温度勾配に注意を払う必要は無く、深さ1cm程度の地温の値で良い。本手法により、土壌が乾燥している条件も含めて日平均顕熱輸送量を推定したところ、観測値と約12W・m2の誤差で一致し、顕熱輸送量の観測値を用いてCHUを求めた場合と同程度の結果となった(図2下)。
  • 蒸発効率βは一般気象要素の日平均値から算定する。この際、データの入手が困難な土壌水分量を用いずにパラメータ化する。
    a.蒸発効率βは、 図1 のモデルから日平均地温の計算を行い、計算値と観測値を一致させることにより同定できる。
    b.日平均地温の推定を目的とする場合は、蒸発効率βは日々の土壌水分量で関数化する必要はなく、降雨条件が大きく変化しない期間の平均値を与えれば良い。この平均化期間について降水量/可能蒸発量(β=1で計算)の値からパラメータ化ができる(図3中)。このパラメータは気象台で得られるデータから容易に計算できる。
    c.βを設定する際の降雨条件の判定は、土壌水分変動と類似の変動を示す先行降雨指数{降水量から計算可能}を用いて土壌の乾湿状態のパターン認識をすれば良い(図3上)。
    d.蒸発比(実蒸発量/可能蒸発量)も蒸発効率βと同様な関係が成り立つ(図3下)。
  • 上記の方法により、気象台で得られるデータから日平均地温、積算蒸発量を推定できる。検証試験の結果ではモデルの推定値は、観測値と良く一致し、0.8~0.9°Cの推定誤差で求めることができた( 図4)

成果の活用面・留意点

  • この方法の適用は平地で、農地が作物群落が地温に影響を及ぼさない播種時期~初期生育の裸地に近い状態での期間を対象とする。

具体的データ

図1 モデルの概要

図2 顕熱の交換係数の算定と日平均顕熱輸送量の推定

図3 蒸発効率および蒸発比の算定

図4 地温(深さ5cm)の比較

その他

  • 研究課題名:寒地気象資源評価のための耕地地温・蒸発量推定法の開発
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成10年度(平成8~10年)
  • 発表論文等:裸地面の地表面温度についての考察およびルーチン気象観測データからの日平均顕熱輸送量の推定,水文・水資源学会誌.9(5)395-403,1996
    蒸発効率の新算定手法の提案,日本農業気象学会北海道支部1998年大会講演要旨集22-23,1998