泥炭水田における地下水位の制御法

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要約

泥炭水田において、地面に垂直に遮水幕を埋め込んで横浸透を遮断すれば圃場内地下水位を水平に維持できる。また、二段水甲によって、常時地下水位を高く保ち、必要な場合に従来の水準まで地下水位を下げることができる。

  • 担当:北海道農業試験場・作物開発部・農地農業施設研究室
  • 連絡先:011-857-9233
  • 部会名:総合研究(農業物理)
  • 専門:農地整備
  • 対象:農業工学
  • 分類:研究

背景・ねらい

北海道の泥炭水田では鉱質土を15~40cm客土して、水稲根が泥炭中に伸びて味を落とすのを防いでいる。ところが、転作後の田面は排水路側が沈下する。農道側から排水路側に土を動かして均平するので農道側の客土が薄くなり、客土の目的を果たせない事例が出てきた。これは、転作水田の地下水位が排水路側で低く農道側で高い勾配を持ち、排水路側の泥炭分解が進むからである。
また、従来の暗渠は、設置位置が深いので地下水位が下がりすぎる。加えて暗渠から泥炭深部に空気が直接供給される結果、泥炭の分解が深くまで進む。泥炭水田の沈下総量を抑えるためには、必要な場合に限って従来の水準まで地下水位を下げ、それ以外の場合、例えば非作付け時には地下水位をなるべく高く維持することが必要である。

成果の内容・特徴

  • 模型実験と圃場試験によれば、1)転作水田から排水路への浸透流出と外部水田等から転作水田への浸透流入(横浸透)を防ぐことで圃場内地下水位を水平に維持することができ、2)暗渠排水口の高さの調節によって地下水位の水準を所定深さに制御することができる。
  • 圃場の地下水位を水平にし、地下水位の水準を簡単に切り替えるための手段例を図1~図3に示す。横浸透は図3のように圃場の四周に沿って地面に垂直に遮水幕を埋め込んで防止する。
  • 地下水位の水準は、排水口の高さを変えて調節する。図2に示す試作の二段水甲は、排水口の高さを、本来の位置と地表下30~50cmの位置の二段階に、簡単に切り替えることができる。この水甲は蓋を外せば内部機構が取り出せるので、部品の補修や交換が容易である。また、排水口を上部地下水位の高さに設定した場合、暗渠から泥炭への空気供給が防がれる。
  • 遮水幕を設置した圃場で二段水甲の上部溢水口を開けると、圃場内の地下水位は溢水口の高さ(ここでは30cm)に水平に維持される(図4)。隣接対照区の水甲開閉弁と同じ深さに当たる主開閉弁を開けると、地下水位は対照区と同じ高さ(ここでは60cm)に低下する。
  • この地区の道路側溝は約1mと深いので外部に降った雨水の浸入が少ない。そのため、対照区であっても、降雨により地下水位に高低差が生じるのは短時間にとどまる。

成果の活用面・留意点

  • 本技術の適用によって、泥炭水田における不等沈下の抑制が期待される。
  • 寒地における遮水幕は、冬季の脆弱化が小さい点でポリエチレンフィルム(図1)が良い。
  • 遮水幕により排水路への直接浸出を防いだ圃場は、地下水の排出がすべて暗渠を通して行われることになるので、補助暗渠密度を上げる等、本暗渠への水の到達策を強化する必要がある。
  • 排水路の深さが1mの試験地では、遮水幕の深さも1mで効果があった。しかし、排水路がさらに深い場合には遮水幕を深くする必要があると考えられる。
  • 本技術における遮水幕工法は、過大な横浸透に起因する漏水の対策としても利用できる。

具体的データ

図1.遮水幕による横浸透防止

 

図2.水位調節水甲

 

図3.横浸透防止のための遮水幕の配置と水位調節水甲の設置位置

図4.遮水幕と水位調節水甲による転作田地下水位の変化

 

その他

  • 研究課題名:圃場内地下水位均一制御のための暗渠組織 -泥炭地水田の沈下抑制型排水技術の開発
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成9~11年
  • 研究担当者:中山熙之
  • 発表論文等:圃場内地下水位水平制御のための基礎試験,
                    第48回農業土木学会北海道支部研究発表会講演集,p.60~63,1999