コムギのハードニング誘導性新規キチナーゼ遺伝子

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要約

秋播コムギでハードニングにより発現が誘導される3種類のキチナーゼ遺伝子を単離した。それらはすべてエンド型キチナーゼ活性を持つことが明らかとなった。

  • 担当:北海道農業試験場・地域基盤研究部・越冬ストレス研究室
  • 連絡先:011-857-9276
  • 部会名:基盤研究
  • 専門:バイテク
  • 対象:麦類
  • 分類:研究

背景・ねらい

秋播コムギでは低温順化(ハードニング)により耐寒性(耐凍性及び雪腐病抵抗性)が発現・増強される。この耐寒性に関しハードニング中に誘導されるPR (Pathogenesis-Related) タンパク質が関与していることが明らかにされ、低温ストレスによる病害抵抗性発現が示唆された。そこで本研究では、ハードニングによって発現が誘導されるPRタンパク質遺伝子、特にキチナーゼをターゲットとして、それをコードする遺伝子の単離とその構造及び機能の解析を行う。

成果の内容・特徴

  • RT-PCR 法により単離されたキチナーゼ遺伝子相同断片をプローブとして、ハードニング処理した秋播コムギPI173438由来のcDNAライブラリーから3種類のキチナーゼcDNA(Chi1、7、10 )を単離した。それぞれのアミノ酸配列の解析から、Chi1 はキチン結合ドメインを持たないクラスIIキチナーゼに、Chi7、10 はキチン結合ドメインを持つクラスIキチナーゼと予想される。またChi7 には、C’末端に液胞移行シグナルと考えられる疎水性領域が認められた(図1)。
  • 3種類のキチナーゼcDNAのノザンハイブリダイゼーションを行った結果、すべてのcDNAでハードニング誘導性が確認された。Chi1 は葉で発現が多く、Chi7 はクラウン部での発現が多かった。(図2)
  • 単離したそれぞれのキチナーゼcDNAを組み込んだ酵母を利用して発現させた組換えタンパク質はコロイダルキチンを分解し、2糖及び3糖のキトオリゴ糖が反応産物として得られた(図3、Chi1、7 についても同様な分解産物が得られた)。そのため単離されたキチナーゼcDNAは、すべてエンド型キチナーゼ活性を持つタンパク質をコードすることが明らかとなった。

成果の活用面・留意点

  • 病原体感染以外のストレスで誘導されるキチナーゼ遺伝子の単離と解析は、現在までほとんど例がないため、新たな機能を持つキチナーゼ遺伝子と予想され、新規の利用可能性が期待できる。
  • Chi1及びChi10 について、ハードニングにより特に強い発現が見られることから、今後これらの遺伝子の発現制御領域を単離解析することにより、ハードニング特異的遺伝子発現ベクターの開発が可能となる。

具体的データ

図1.単離cDNA(Chi 1,7,10)の予想される構造・性状

 

図2.単離cDNAのハードニング過程での発現解析

 

図3.Chi10形質転換酵母で生産された組換えタンパク質によるキチン分解産物のHPLC分析

その他

  • 研究課題名:ハードニングにより誘導されるストレスタンパク質及び遺伝子の解析
  • 予算区分:特別研究(低温環境代謝)
  • 研究担当者:川上 顕、寺見文宏
  • 発表論文等:
    • 川上 顕、吉田みどり (1999) 低温順化により発現する秋播コムギのキチナーゼ 遺伝子 1999年日本植物病理学会北海道部会 講演要旨
    • 川上 顕、吉田みどり (1999) 秋播コムギでハードニング中に発現するキチナー ゼ遺伝子の単離及び解析 第22回日本分子生物学会年会 講演要旨 p538
    • 川上 顕、吉田みどり (2000) 秋播コムギ・キチナーゼのハードニングによる発 現誘導と酵素機能の解析 日本植物生理学会2000年大会 講演予定
    • 川上 顕、寺見文宏 (1999) 低温発現型キチナーゼ遺伝子 特許出願中