コムギ及び近縁種のESTカタログ

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要約

北海道農業試験場等わが国の10研究機関が参画する国際共同プロジェクトのもと、コムギ及びその近縁種を材料として、各種器官で発現している遺伝子情報(Expressed Sequence Tags; EST)を網羅的に解析し、そのカタログ化を行った。現在24,346ESTが国際データベースに登録、公開されている。

  • 北海道農業試験場・地域基盤研究部・適応生態研究室
  • 連絡先:011-857-9211
  • 部会名:基盤研究
  • 専門:バイテク
  • 対象:麦類
  • 分類:研究

背景・ねらい

1998年8月にカナダで開催された第9回国際コムギ遺伝学シンポジウムにおいて、コムギの国際EST事業(ITEC; International Triticeae EST Cooperative)が合意され、日本では横浜市立大学木原生物学研究所を中心に、当研究室を含め、産学官10研究機関により、コムギ及びその近縁種のEST事業の国際分担を実施することとした。EST解析はゲノム研究の一端を担う研究であり、すでにヒトやシロイヌナズナ等で大規模に実施され、大きな成果をあげている。そこで、本研究では、コムギ及びその近縁種を材料として、今後のゲノム研究推進の強力なツールとなるESTカタログを作製する。

成果の内容・特徴

  • 日本を含めITEC参加13カ国35研究グループにより、総計24,346ESTがITECのESTデータベースに登録されている。そのうち、コムギESTが16,628クローンで全体の68%を占めており、他にオオムギ、ライムギなどのEST配列情報が登録されている(表1)。また、EST解析に使用された器官は、葉、幼穂、胚乳、根、花序などである。
  • 国際共同研究のフェイズ・に関する取り決めでは、各研究参加グループは種・器官等を特定したcDNAライブラリーを基に、300塩基以上の長さを持つ1000クローン以上を登録することとしている。これを受けて、日本の共同研究グループは、幼穂由来のcDNAライブラリーを基に、2130クローンのEST配列情報をデータベースに登録している。このうち、適応生態研究室からの登録は、国内での研究分担取り決め10%に相当する204クローンである。登録された情報の平均サイズは515塩基である(図1)。日本での共同研究で明らかにされたクローンについて、クローン間の相同性を解析すると、336のクローングループと他と重複しない274の単一クローンとからなる610の独立クローングループに分類することができる(図2)。各グループについて、データベース中の登録遺伝子との相同性を検定すると、全体の87%にあたる532クローングループは既知の登録遺伝子との相同性が見られるが、残りの78クローングループは未知の配列からなると判断される。

成果の活用面・留意点

  • ITECのEST配列情報には、インターネット上で自由にアクセスすることができる(URL; http://wheat.pw.usda.gov/genome/)。また、すべての配列情報は、GenBankのdbESTセクションにも登録されている。さらに、ITECのサイトにおいては、ESTデータベースに対して、BLAST検索を実施することが可能である。なお、ITECで得られたESTクローンは、GrainGenes (USDA ARS Center for Bioinformatics and Comparative Genomics, Cornell University)で保管されており、将来的にはGrainGenesによる配布が計画されている。
  • コムギやその近縁種におけるゲノム研究推進の重要な基礎データを提供することができ、今後のコムギ等の分子育種の発展に寄与できる。

具体的データ

表1.ITECにより解析されたESTクローンの集計

 

図1.日本で解析されたESTクローンの塩基数の頻度

 

図2.日本で解析されたESTクローンの集計

 

その他

  • 研究課題名:コムギ幼穂分化期におけるESTクローンの解析
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成12年度(平成11年)
  • 研究担当者:半田裕一、下坂悦生、栗原志保
  • 発表論文等:
    1)荻原保成, 藤田雅子, 川浦香奈子, 大澤智子, 村井耕二, 松岡由浩, 布籐 聡, 佐藤恵美, 早川克志, 野田和彦, 宇都木繁子, 力石和英, Ahmed Nisar, 半田裕一, 村山誠治, 小林 愛, 下坂悦生, 栗原志保, 富田因則, 寺地 徹, 山崎由紀子 (1999) コムギ幼穂におけるExpressed Sequence Tags (EST)の大量解析.育種学雑誌. 49 (別冊2): 9.
    2)荻原保成, 藤田雅子, 川浦香奈子, 大澤智子, 村井耕二, 松岡由浩, 布籐 聡, 佐藤恵美, 早川克志, 野田和彦, 宇都木繁子, 力石和英, Ahmed Nisar, 半田裕一, 村山誠治, 小林 愛, 下坂悦生, 栗原志保, 富田因則, 寺地 徹, 山崎由紀子 (1999) コムギのゲノム科学II. コムギ幼穂で発現されるcDNAの大量解析.第22回日本分子生物学会年会講演要旨集.p284.
    3)Kobayashi-Uehara, A., Shimosaka, E. and Handa H. (2001) Cloning and expression analyses of cDNA encoding an ADP-ribosylation factor from wheat:tissue-specific expression of wheat ARF. Plant Science 160: 535-542.