北海道における持続型放牧草地の実態と管理方法

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要約

旭川市内の山地酪農放牧草地の年牧草乾物生産量は、不耕起造成20年経過後も5.5t/haに維持されている。年間を通じて草高を10cm以下に保つ管理により、多種のイネ科牧草とシロクローバが高い植被率で維持され、植生は安定的に推移している。

  • キーワード:ケンタッキーブルーグラス、生態、他のイネ科牧草、乳用牛、ペレニアルライグラス、放牧、山地酪農
  • 担当:北農研・畜産草地部・放牧利用研究室
  • 連絡先:011-857-9313
  • 区分:北海道農業・畜産草地
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

旭川市S牧場では低投入持続型農業の一類型とされる山地酪農を実践し、傾斜地に放牧草地を小面積ずつ、多年にわたり火入れ直播法により不耕起造成している。北海道では利用5年程度で草地植生が悪化する事例が少なくないが、S牧場では永年にわたり放牧草地が維持されている。そこで、その実態を明らかにするため、放牧草地の管理方法について聞き取り調査するとともに、不耕起造成後20年以上経過した永年放牧草地を対象に植生変化と生産量を調査した。

成果の内容・特徴

  • 調査対象地は約60haの1牧区制放牧専用草地内にあり、約70頭の乳牛が融雪直後の4月から11月までの毎日、昼間放牧される。夜間は牛舎に係留され、粗飼料と濃厚飼料が給与される。
  • 草地土壌は褐色森林土に分類される鉱質土で、追肥は主にリン酸が年0-8kg/10a施用される。有効態リン酸濃度、苦土カリ比、保肥力(CEC)が高く、リン酸の吸着力は中程度、置換性カリ濃度が低い(表1)。
  • 植生調査の結果を主要草種の拡大積算優占度(本指標値が高い草種ほど優占度は高い)で示す(図1)。植生は6種以上のイネ科牧草とシロクローバが混生し、ケンタッキーブルーグラス、シロクローバ、ペレニアルライグラス、フェスク類が多く、レッドトップは局在する。これら牧草種の種組成は安定しており、7年間の調査期間中に大きな植生変化は生じず、悪化の傾向もない。雑草では、オオチドメ、セイヨウタンポポ、オオバコが主に認められる。
  • 7年の調査期間中、群落高は平均6.2cm(4-10cm)と低く保たれ、植被率は平均96.3%と高く維持されている。
  • 永年草地の年牧草乾物生産量は5.5t/haで、集約放牧草地の7割程度に維持されている。日乾物生産速度(図2)は二山型を示すが、最大で5.5g/m2 と低く、比較的平準な季節生産性である。一方、放牧期間中の乾物草量(図3)は平均49g/m2 と少なく推移し、本草地が持続的な強放牧圧下にあることが示唆される。
  • 以上の結果、放牧草地が多様な草種構成で永年維持される要因として、強い放牧圧・低水準の窒素施用・春の早期放牧開始の相乗効果によるスプリングフラッシュの抑制と10cm以下の低草高の維持が挙げられる。

成果の活用面・留意点

  • 寒地・寒冷地における山地酪農放牧草地の実態が明らかとなり、その管理方法には一般の放牧草地の維持年限延長と植被率向上を図る上で活用可能な素材技術を含む。
  • 低草高・低草量での放牧に適応できるよう乳牛は充分に放牧馴致し、乳量水準は5000kg程度とする必要がある。また、エゾノギシギシやアザミ等刈り取りの容易な雑草は日常管理により随時除去する。

具体的データ

表1.土壌分析の結果

図1.主要草種の拡大積算優占度

図2.日乾物生産速度の季節変化

図3.放牧期間中の乾物草量の変化

その他

  • 研究課題名:北海道におけるナガハグサ型草地の確立および維持条件に関する研究
  • 予算区分:草地動態
  • 研究期間:1997~2001年度
  • 研究担当者:須藤賢司、小川恭男、梅村和弘、池田哲也、落合一彦
  • 発表論文等:須藤ら(2001)日草誌47(別):126-127