膜リン脂質調節によるコムギ低温適応機構

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要約

コムギ膜リン脂質ホスファチジルエタノールアミン生合成遺伝子を植物より初めて単離した.本遺伝子の産物はCTP及びホスホエタノールアミン(PE)からCDP-エタノールアミンを生成し,その発現は低温馴化過程で顕著に誘導される.低温馴化中の遺伝子発現量の増加はPE含量の増加と相関しており,膜リン脂質中のPE比率の増加が低温馴化に深く関わる.

  • キーワード:コムギ,低温馴化,膜脂質,ホスファチジルエタノールアミン
  • 担当:北農研・地域基盤研究部・越冬ストレス研究室
  • 連絡先:電話011-857-9382、電子メールrzi@affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・基盤研究
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

低温ストレスの一次的な作用部位は膜系に存在すると考えられている.膜の物理的性質が温度シフトにより変化し,膜タンパク質を失活させ,イオンホメオスタシス,電子伝達,光合成機能等に障害を与える.従って,作物の低温適応において膜脂質の低温適応が重要である.これまでに膜脂質脂肪酸の不飽和化による膜の低温適応については多くの研究が行われているが,膜リン脂質自体の組成変化による低温適応についてはあまり研究が進んでいない.本研究ではコムギよりリン脂質生合成遺伝子を単離し,低温馴化過程においてその発現量と脂質組成の変化を明らかにすることを目的とする.

成果の内容・特徴

  • コムギクラウンより単離されたWECT1遺伝子をGST融合タンパク質として大腸菌に蓄積させ,その抽出液を用いて酵素反応を行うと,HPLCを用いてphosphatidylethanolamine cytidylyltransferase活性を検出できる(図1).
  • WECT1の発現は低温馴化中のクラウン組織及び低温処理した幼苗で誘導される(図2).
  • 低温馴化中の葉組織由来の生体膜で,ホスファチジルコリン(PC)に比べ,PE含量は顕著に増加する(図3).
  • WECT1タンパク質は核内に局在するためPE生合成の少なくとも1段階は核内で起こる(図4).

成果の活用面・留意点

WECT1遺伝子を活用して,植物のリン脂質組成を人為的に制御することにより,植物の低温耐性を強化できる.

具体的データ

図1.WECT1は、phosphatidylethanolamine cytidylyltransferaseをコードする。 図2.WECT1の低温誘導発現。

 

図3.低温馴化過程でのPE、PC量及び比率の変化

 

図4.WECT1は核に局在する。

その他

  • 研究課題名:越冬性作物の持つ低温耐性獲得機構の解明
  • 予算区分:交付金プロ(形態生理)
  • 研究期間:2001.2003年度
  • 研究担当者:今井亮三