釧路湿原におけるハンノキ林拡大要因の一つに土砂流入増加がある

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要約

釧路湿原のハンノキ林が拡大している地点において、泥炭土壌表層での土砂の増加が確認でき、また、未攪乱土壌の137Cs濃度分析から、表層の土砂が近年の堆積であることがわかるので、ハンノキ林の拡大要因の一つに土砂流入増加があることが示される。

  • キーワード:釧路湿原、土砂流入、ハンノキ林拡大、泥炭土壌、セシウム
  • 担当:北農研・生産環境部・土壌特性研究室、北大植物園、農環研
  • 連絡先:電話011-857-9241、電子メールkatokuni@affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・生産環境、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

近年、道東の低層湿原ではハンノキ林の拡大が問題になっている。土砂流入の増加や乾燥化、富栄養化などが植生の変動要因として想定されているが、実態は明らかになっていない。そこで、空中写真の解析や年輪調査などから過去の植生変化を解明するとともに、泥炭土壌に刻まれた過去の堆積状況を推定する手法を開発し、湿原への土砂流入増加が湿原植生に及ぼす影響を検討する。

成果の内容・特徴

  • 1965年以降の空中写真判読結果をもとに久著呂川の直線化した明渠排水下端から約2km下流付近までの湿原内の林相変化を時系列的に解析すると、ハンノキ林が増加している場所は河川の近傍ではなく、むしろ河川から離れた後背地である(データ略)。
  • 比較的自然が保たれているチルワツナイ川流域と土砂流入の増加が懸念されている久著呂川流域において、植生変化のなかった地点とハンノキ林が増加した地点のそれぞれでハンノキ林を調査すると、植生変化のなかったチルワツナイ川流域(図1、CHライン)のハンノキ林は樹高・胸高直径が様々な階級からなる樹幹で成立しているのに対して、久著呂川流域(図1、Kライン)のハンノキ林はばらつきが小さく、一斉に侵入ないし萌芽再生したものと考えられる(データ略)。また、Kラインでは、川から離れるほどハンノキ林の樹高が低くなり密度は増加している(図2)。
  • チルワツナイ川流域(CHライン)においては、草本植生でもハンノキ林でもともに地表面に向けて有機物が増加しているのに対して、久著呂川流域(Kライン)では、地表面に向かって有機物が減り、鉱質物が増加している(図3の表層部分)。
  • 冬季に凍結した泥炭土壌をコアで採取することにより、後背湿地の湛水面下にある泥炭土壌の表層を未攪乱で採取できる。未攪乱土壌について深さ毎に137Cs濃度を分析することにより、1960年代前半以降の堆積深度が推定でき、ハンノキ林拡大地点の鉱質物の多い表層部分は近年堆積したことがわかる(図3、図4)。
  • 以上の結果から、土砂流入増加は釧路湿原におけるハンノキ林拡大の一因である。また、湿原の過去の環境変化の推測には、未攪乱の泥炭土壌の採取と137Cs分析の利用が可能である。凍結時の土壌コア採取は、寒冷地における後背湿地で未攪乱土壌を得る有効な方法である。

成果の活用面・留意点

  • 河川を通じて釧路湿原に流入する土砂の適正量の評価が可能となり、湿原上流域の管理指針作成に適用できる。
  • ハンノキ林の拡大には、土砂流入以外に水位や水質の変化などの要因も影響している可能性がある。
  • 凍結時の土壌コア採取は未攪乱土壌を得るのに有効だが、さらに下層の凍結していない部分についてはこの手法が適用できない。

具体的データ

図1 調査地点図

 

図2 久著呂川流域K ラインの各地点におけるハンノキ林の樹高と密度

 

図3 深度別の有機物含量変化 図4 久著呂川流域における深度別137Cs 含量データ

その他

  • 研究課題名:土砂流入の増加が湿原の土壌環境および植生に及ぼす影響の解明と評価
  • 予算区分:公害防止(地球環境保全)
  • 研究期間:2001~2002年度
  • 研究担当者:加藤邦彦、竹中眞、冨士田裕子(北大植物園)、藤村善安(北大植物園)、金澤健二、早川嘉彦、
                      柳谷修自、結田康一(農環研)、藤原英司(農環研)、永田修、草場敬