労働時間を考慮したふん尿処理施設投資限界額算定手法

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要約

酪農専業経営が家畜排せつ物法に対応したふん尿処理施設を整備するにあたり、許容される労働時間やふん尿散布面積の範囲内で投資限界額を算出する手法を開発した。これにより、酪農経営は多様なふん尿処理施設から投資可能条件に適合した費用の施設を選択することができる。

  • キーワード:酪農経営、ふん尿処理施設、投資限界額、資本回収法、労働時間
  • 担当:農研機構・北海道農研・総合研究部・動向解析研究室
  • 連絡先:電話011-857-9308、電子メールnaoaki@affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・総合研究
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

家畜排せつ物法では、2004年11月までに適正なふん尿処理のための施設整備を畜産農家に義務づけているが、北海道の酪農経営では資金 不足により、未整備の経営が少なくない。新たに堆肥舎等を整備するための建設資金を確保するためには所得増加を図る必要がある。そのための一つの方策とし て、飼養頭数を増やすことが考えられるが、頭数増加を過度に行えば、ふん尿の多量化、飼養管理労働時間の増加による労働力不足が生じ、ふん尿処理が困難と なる。この場合、土地や労働力の経営資源の利用可能条件を反映した増加可能頭数を算定して、ふん尿処理施設の規模や将来の整備計画を支援するための手法の 開発が求められる。ここでは、ふん尿処理施設の建設資金の確保のために所得増加が必要で労働時間およびふん尿散布面積に余裕がある酪農専業経営を対象に、 新規ふん尿処理施設への投資限界額の算定手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 投資限界額の算出手順は次の通りである(図)。 まず、酪農経営の経営条件(規模拡大にとって制約条件となる乳牛頭数と耕地面積、労働時間)より追加散布可能量および追加可能労働時間を算出し、これらの 値からそれぞれの追加可能頭数(ΔXa,ΔXb)を求め、堆肥散布における面積と労働時間の2つの制約を満たす数値を堆肥散布期間における追加可能頭数 (ΔX1)とする。次に、堆肥麦稈交換期間およびその他の期間の追加可能労働時間より、それぞれ追加可能頭数(ΔX2, ΔX3)を算出する。ΔX1、ΔX2、ΔX3を比較し、堆肥散布、麦稈交換、その他の時期の制約を満たす数値を追加可能頭数(ΔX)とする。この数値から 所得増加額を求め、さらに資本回収法を用いて新規ふん尿処理施設への投資限界額を求める。
  • この手法を北海道十勝支庁管内の経営条件(頭数規模)の異なる酪農家2戸(表1)に適用した結果、新規ふん尿処理施設への投資限界額はA農家1,820万円、B農家1,988万円、経産牛1頭当たりに換算すると16.2万円、26.0万円となった(表2)。北海道で一般的な堆肥舎建設費用(1頭当たり20~30万円)に比較して、A農家はやや不足、B農家は同程度であった。
  • 酪農経営の新規ふん尿処理施設整備の指導支援に当たっては、飼養頭数1頭当たりふん尿処理施設投資限界額を算出することにより、酪農経営は多様なふん尿処理施設から投資可能条件に適合した費用の施設を選択することができ、適切な整備計画を立てることができる。

成果の活用面・留意点

    • 労働制約が特に重要となる家族経営の適正ふん尿処理のための投資限界額を表計算ソフトを使い簡易に算出することができ、新規ふん尿処理施設の選択・整備計画支援に活用できる。
    • 労働時間やふん尿散布面積に余裕のない経営では、耕地面積増加や飼養管理労働時間節減等の経営改善が必要である。

 

      [平成15年度北海道農業試験会議における課題名および区分]

 

    課題名:酪農経営が抱えるふん尿処理問題から見た経営対策(指導参考)

具体的データ

図 投資額算定のフローチャート

 

表1 適用農家の概要

 

表2 試算結果

 

その他

  • 研究課題名:投資と労働から見たふん尿処理施設の導入条件の解明
  • 課題ID:04-01-01-01-03-03
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2000~2003年度
  • 研究担当者:藤田直聡、鵜川洋樹、細山隆夫、若林勝史
  • 発表論文等:
    1)藤田(2003)2003年度日本農業経済学会論文集:223-225
    2)藤田(2003)北海道農業研究センター農業経営研究 83:1-16