RNAシャペロンを介する生物間に保存された低温適応機構

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要約

コムギなど高等植物は原核生物と構造と機能を共通にする低温ショックドメインタンパク質を有する.低温下で蓄積するそのタンパク質の機能は,RNAの2次構造を解消させるRNAシャペロンである.

  • キーワード:コムギ,大腸菌,低温馴化,低温ショック,RNAシャペロン
  • 担当:北海道農研・地域基盤研究部・越冬ストレス研究室
  • 連絡先:電話 011-857-9382 電子メール rzi@affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・基盤研究,作物・生物工学
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

熱ショック応答は生物普遍的に存在し,分子シャペロンによるタンパク質構造再生の機構は生物の持つ基本機能であることが明らかにされてい る.一方,低温ショック応答としては普遍性の高い適応機構はこれまで知られていない.原核生物では,低温下で低温ショックタンパク質(Csp)が誘導さ れ,RNA上に形成される2次構造を解消し,翻訳停止解除あるいは抗転写終結を行うRNAシャペロンとして機能することが示されているが,高等生物ではこ のような機構は知られていない.本研究では,原核生物と高等植物間で保存される低温適応機構を解明することを目的としている.

成果の内容・特徴

  • コムギWCSP1タンパク質は大腸菌CspAと保存性の高い低温ショックドメイン,グリシンに富んだ領域及び3個のジンクフィンガーモチーフよりなる(図1A).
  • WCSP1はpolyG, polyUに特異性の高いRNA結合活性と1本鎖及び2本鎖DNAに対する結合活性をもつ(図1B,C).
  • WCSP1遺伝子の発現は低温馴化中のクラウン組織で誘導される.またその時WCSP1タンパク質も高度に蓄積する(図1D).
  • WCSP1の導入により,大腸菌csp四重変異株が示す低温感受性が回復する.従ってWCSP1タンパク質は大腸菌Cspと共通の機能を有する(図2).
  • WCSP1はtrpLターミネーターによって起こる転写終結を解除する.RNA2次構造を解消させるRNAシャペロン活性をもつ(図3).
  • WCSP1相同遺伝子は,高等植物に広く存在している.

成果の活用面・留意点

  • 生物の低温適応の解明を目指した研究に基礎情報として活用できる.
  • 作物や微生物の低温耐性の強化に単離された遺伝子を利用できる.

具体的データ

図1 WCSP1の構造と機能

 

図2 WCSP1の大腸菌csp変異株の構造と機能

 

WCSP1のRNAシャペロン活性

 

その他

  • 研究課題名:越冬性作物の持つ低温耐性獲得機構の解明
  • 課題ID:04-07-02-01-07-03
  • 予算区分:交付金プロ(形態・生理)
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:今井亮三,Dale Karlson,中南健太郎
  • 発表論文等:
    1)Karlson et al. (2002) J. Biol. Chem 277: 35248-35256.
    2)Karlson and Imai (2003) Plant Physiol. 131:12-15
    3)今井ら (2003) 化学と生物 41:492-494.