高温誘導性遺伝子を利用した複合環境ストレス耐性イネ
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要約
高温誘導性遺伝子APXa とsHSP17.7 の過剰発現は、ともに複数のストレスに対して、イネの耐性を高める効果があり、特に、sHSP17.7 の過剰発現は、高・低温耐性、乾燥耐性、UV耐性及び塩ストレス耐性の全てを高める効果がある。
- キーワード:複合環境ストレス耐性、高温誘導性遺伝子、APXa、sHSP、イネ
- 担当:北海道農研・地域基盤研究部・冷害生理研究室
- 連絡先:電話011-857-9381、電子メールyutaka@affrc.go.jp
- 区分:北海道農業・基盤研究、作物・生物工学
- 分類:科学・普及
背景・ねらい
イネは低温馴化能を持たないが、他のストレスに曝されることにより低温耐性を獲得することが知られている。例えば、一定時間高温に曝されたイネ幼苗は、低温耐性が著しく高まる。この現象には高温で発現が誘導される活性酸素消去酵素遺伝子APXa と分子シャペロン活性を持つ熱ショックタンパク質遺伝子sHSP17.7 の関与が示唆されている。そこで本研究では、これらの遺伝子をイネで過剰発現させることにより、イネ幼苗に低温耐性をはじめとする種々のストレス耐性を付与することを試みた。
成果の内容・特徴
- PMLH7133のGUSをAPXa で置き換えたコンストラクトをアグロバクテリウム法で再導入して作出した形質転換イネでは、APXa が過剰発現している系統と、原品種と同程度に発現量の少ない系統とがある(図1A)。
- APXa を過剰発現する形質転換系統では、APX活性が原品種より2倍程度高く、低温処理後の過酸化水素発生量が少ない(図1B)。また、播種後10日目の幼苗の低温、高温及び乾燥耐性が原品種よりも有意に高い(図2)。
- PMLH7133のGUSをsHSP17.7 で置き換えたコンストラクトをアグロバクテリウム法で再導入して作出した形質転換イネでは、系統によって導入遺伝子が種々のレベルで発現している(図3)。
- sHSP17.7 を過剰発現する形質転換系統では、高・低温耐性、乾燥耐性、UV耐性及び塩ストレス耐性が原品種よりも有意に高い(図4)。
- 以上のように、APXa とsHSP17.7 の過剰発現は、ともに複数のストレスに対して耐性を高める効果があり、特に、sHSP17.7 の過剰発現は、調査したストレスの全てにおいて耐性を高める効果がある。
成果の活用面・留意点
- 植物のストレス交差耐性発現機構の解明に利用できる。
- 穂ばらみ期耐冷性については、未調査である。
具体的データ




その他
- 研究課題名:イネの高温による交差耐性発現機構の解明とその利用法の開発
- 課題ID:04-07-01-01-12-03
- 予算区分:イネ交差耐性(パイオニア)
- 研究期間:2001~2003年度
- 研究担当者:佐藤 裕
- 発表論文等:
1)Murakami et al. (2004) Over-expression of a small heat shock protein, sHSP17.7, confers both heat tolerance and UV-B resistance to rice plants, Molecular Breeding, in press
2)佐藤ら(2001) ストレス耐性植物 特願2001-199272