凍土層下の非凍結土壌のマトリックポテンシャルを計測するためのテンシオメータ

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要約

地上部と凍土層部を断熱し、中に小さな熱源を入れることで測器内の水の凍結を防止し、土壌凍結期間を通して凍土層下の非凍結土壌のマトリックポテンシャルを計測する。これにより、積雪・土壌凍結地帯の冬季の土壌水分移動の把握が可能となる。

  • キーワード:寒地、凍土層、テンシオメータ、土壌水分移動、積雪
  • 担当:北海道農研・畑作研究部・生産技術研究チーム
  • 連絡先:電話0155-62-9274、電子メールiwatayuk@affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・生産環境、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

寒地・寒冷地における冬季の土壌水分移動は、土壌凍結層の発達や積雪により温暖な時期とは全く異なると考えられる。しかし、積雪・土壌凍結環境下での土壌水の移動に関する情報は、手法が確立されていないのでほとんど無い。そのため、例えば融雪期の土壌浸食量の把握や冬期間の肥料の溶脱量の把握などができないことが問題となっている。
そこで、積雪・土壌凍結地帯の水移動の詳細を長期的にモニタリングするため、凍土層下の非凍結土壌のマトリックポテンシャルを計測する測器を開発する。

成果の内容・特徴

  • 既存のテンシオメータの地上部と凍土層部分を断熱材で覆い、さらに小さな熱源(1~2W程度)を入れることでテンシオメータ内の水の凍結を防止できる。これにより、積雪・土壌凍結期間でも凍土層下の非凍土壌のマトリックポテンシャルが連続かつ長期的に精度良く計測できる(図1)。
  • ポーラスカップと断熱箱(図1-1)の距離を確保することで、熱源の影響、設置時の土壌の攪乱、測器への水補給時の積雪層の攪乱などによる計測結果への影響が緩和される。
  • 箱の底部を土中に埋設することで、凍上で断熱箱が持ち上げられて断熱材に亀裂が発生することが避けられる(図1-1)。
  • 圧力センサとポーラスカップを結ぶ導管部分に角度をつけることで、測器底部の水平部分(図1-2)に析出した空気が測器上部に容易に排出可能となる。
  • 本測器により凍土層下の異なる深さのマトリックポテンシャルを観測することで、土壌凍結発達に伴い大きな駆動力で凍土層に水が吸い上げられること(図2-1)、積雪による断熱後は凍土層下層がゆっくりと湿潤化し水移動の方向が鉛直下向きに変化すること(図2-2)、融雪に伴う融雪水の凍土層下層への進入時期(図2-3)などが観測される。

成果の活用面・留意点

  • 本測器は積雪・土壌凍結地帯の凍土層下の土壌のマトリックポテンシャルの長期観測に特に有効であるが、温暖地の冬季のテンシオメータ内の水の凍結防止としても有効である。
  • ポーラスカップは空気進入圧-0.1MPa以下で応答性の良いものを、圧力計は-0.1MPa以上の負圧計測が可能で90Pa以下の分解能をもつものを用いる。
  • 計測されたマトリックポテンシャルヘッドが-7m以下に乾燥した場合はテンシオメータ内の空気の析出等により測定値の信頼性が低くなる場合があるため、欠測扱いにするかどうかを検討する必要がある。
  • 設置の際は試坑を掘り、設置するポーラスカップと同径のドリルで水準器を用いて水平方向に孔をあけ、測器の水平部分(図1-2)を差し込む。試坑を埋め戻すときは測器を破損しないように、かつある程度締まった状態になるように丁寧におこなう。
  • 設置場所の条件に応じ、熱源の大きさを考慮する。

具体的データ

図1 凍土層下層のマトリックポテンシャルを観測するためにテンシオメータ

図2 凍土層下の非凍結土壌のマトリックポテンシャルの観測例

その他

  • 研究課題名:積雪・土壌凍結条件における土壌水分移動
  • 課題ID:04-04-01-01-10-04
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2002~2004年度
  • 研究担当者:岩田幸良、広田知良、奥野林太郎
  • 発表論文等:1) Iwata and Hirota (2005) Journal of Agricultural Meteorology 60(5): 1065-1068.
                      2) Iwata and Hirota (2005) Hydrological Processes. (in press).
                      3) Hirota and Iwata (2005) Journal of Agricultural Meteorology 60(5): 673-676.