フルクタン合成酵素遺伝子の導入によるペレニアルライグラスの耐凍性の強化

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要約

コムギのフルクタン合成酵素遺伝子の導入により、ペレニアルライグラスのフルクタンの蓄積量が増大し、耐凍性が強化される。

  • キーワード:フルクタン合成酵素遺伝子、ペレニアルライグラス、耐凍性、形質転換
  • 担当:北海道農研・地域基盤研究部・越冬ストレス研究室、作物開発部・イネ科牧草育種研究室
  • 連絡先:電話011-857-9524、電子メールwww@cryo.affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・基盤研、作物・生物工学
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

フルクタンは寒地型イネ科植物組織に貯蔵される可溶性多糖およびフルクトオリゴ糖で、その含量が牧草の耐凍性・越冬性と高く相関することが知られている。また、フルクタン含量の増加は家畜の嗜好性や消化性の向上にも効果がある。寒地型牧草のペレニアルライグラスは放牧利用に優れた飼料価値がある反面、越冬性が低いため広域的な普及に問題がある。そこで,フルクタン合成酵素遺伝子導入によりフルクタン含量を増加させることにより、これらの越冬性の向上が期待できる。本研究はペレニアルライグラスにコムギ由来のフルクタン合成酵素遺伝子を導入してフルクタン含量を高め,越冬性と機能性の双方を向上させた育種素材の作出を目的とする。

成果の内容・特徴

  • 得られた形質転換体は、コムギの2種のフルクタン合成酵素sucrose:sucrose 1-fructosyltransferase(1-SST),およびsucrose:fructan 6-fructosyltransferase (6-SFT)の遺伝子をそれぞれ35SプロモーターにつないだpUC系ベクターとビアラフォス耐性遺伝子(bar )を持つベクターを用いて、パーティクルガンによるco-transformation法でペレニアルライグラス品種「Rikka」の完熟種子由来のカルスに遺伝子を導入されている。
  • ビアラフォス耐性カルスから再生したTo71個体のうち、27個体で6-SFT遺伝子,6個体で1-SST遺伝子,4個体で両遺伝子の導入がPCR-サザンハイブリダイゼーション法により確認されている。
  • 遺伝子導入が確認された個体について、葉のフルクタン含量を分析すると、コントロール植物(非遺伝子導入のカルス由来再生個体, C1, C2;種子から育成した個体, C3)と比較して、両遺伝子が導入された植物(2-3, 6-9)では有意な差がみられないが、6-SFT遺伝子導入個体(7-3, 14-1)、1-SST遺伝子導入個体(7-2, 9-1, 10-1)では、フルクタンの含量が有意に高い(図1)。
  • フルクタン含量増加が見られる形質転換体で導入遺伝子発現が検出されるため、培養変異ではなく導入遺伝子の効果によるフルクタン合成促進と判断できる(図2)。
  • 形質転換体(To)はすべて形態的な異常および稔性の低下を示さない。
  • To個体を6℃明/2℃暗、3週間の低温ハードニング処理後、切離葉を用いた電気伝導度法で耐凍性検定すると、高フルクタン蓄積個体はコントロールのペレニアルライグラスを上回る耐凍性を示す(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 高フルクタン蓄積個体は、越冬性の高いペレニアルライグラスの育種素材として利用できる。
  • 高フルクタン蓄積個体は、嗜好性の高い機能性ペレニアルライグラスの育種素材として利用できる。
  • この技術は、他の越冬作物の耐凍性、越冬性強化技術にも応用できる。

具体的データ

図1 フルクタン合成酵素遺伝子を導入した形質転換体(T0)のフルクタン含量図2 形質転換体内での導入遺伝子の発現

図3 形質転換体(T0)の耐凍性検定

その他

  • 研究課題名:フルクタン合成酵素遺伝子導入による牧草の新育種素材の開発
                      1.ペレニアルライグラスへのフルクタン合成酵素遺伝子の導入
  • 課題ID:04-07-02-*-16-04
  • 予算区分:組換え植物
  • 研究期間:2002~2004年度
  • 研究担当者:吉田みどり、川上 顕、寺見文宏、山田敏彦、久野 裕(北農研、講習生)
  • 発表論文等:Hisano et al.(2004) Plant Sci. 167:861-868