まき牛繁殖構造における日本短角種の改良と遺伝的多様性の維持

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要約

日本短角種のまき牛繁殖で形質の改良と多様性維持の両立をめざした選抜を行う場合、近交度の上昇を2%低くすると、形質の改良量は標準偏差単位で約0.5小さくなる。血縁情報にDNAマーカーの情報を組み合わせると、近交度の上昇がわずかに抑えられる。

  • キーワード:日本短角種、小集団、維持改良、ウシ、家畜育種
  • 担当:北海道農研・畜産草地部・家畜育種研究室
  • 連絡先:電話011-857-9270、電子メールtake@affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・畜産草地、畜産草地
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

日本短角種は、他の肉専用種と比べて販売価格が安いためにその数が減少しつつある。しかし、哺育能力が高く放牧条件下で高い子牛取得率を示すなど、優れた特性を多く持った品種であり、現在も山間地などの条件では有用な肉用種として飼われており、また、遺伝資源としても貴重な品種である。この品種を維持するためには、品種の特性を発揮できるまき牛繁殖構造の中で改良を進め、かつ、遺伝的多様性を維持して近交退化による集団の衰退を防がなくてはならない。そこで、まき牛繁殖構造を想定した集団で形質の改良と多様性の維持を目指した選抜を行った場合をシミュレーションするモデルを開発し、集団の遺伝的変化の予測を行う。また、トレーサビリティシステムで得られるDNAマーカー情報を、有効に活用して遺伝的多様性の維持の効率をあげることを検討する。

成果の内容・特徴

  • まき牛繁殖の集団構造は牧区ごとにサブ集団を構成し、エリート牧区から生産される雄牛を毎年選抜して極端な近交とならない牧区にまき牛として供給されており、図1に示す構造のもとで、形質の改良と血縁の上昇をシミュレーションするモデルを開発した。
  • 形質の改良と多様性の維持を意図し、両者の重み付けを変えて選抜した場合の、育種価と平均共祖係数の変化は、表1に示すように共祖係数を低く抑えようとすれば改良量が小さくなり、50年後の共祖係数の上昇を2%低くすると、形質の改良量は標準偏差単位で約0.5小さくなる
  • トレーサビリティシステムで得られる情報を有効に活用するために、個体識別に利用する30個のDNAマーカーの情報を血縁に組み合わせて評価することにより、育種価を同程度改良しつつ約1/20血縁の上昇率を抑えることが可能となる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 日本短角種集団の多様性維持と形質の改良の適度なバランスをとるために、選抜にかける重みを選定するための情報を与える。
  • 日本短角種のまき牛繁殖を想定したシミュレーションモデルであるが、設定を変えれば他の品種や畜種に応用することが可能である。

具体的データ

図1:日本短角種のまき牛繁殖を想定したシミュレーション集団の構造

表1 形質と多様性を同時に選抜した場合の育種価と共祖係数の上昇

表2 雄の育種価と共祖率の上昇

その他

  • 研究課題名:マーカーに基づく小集団の維持改良システムの開発
  • 課題ID:04-05-01-*-14-04
  • 担当部署:農研機構・北海道農研・畜産草地部・家畜育種研
  • 予算区分:食品総合(畜産物マーカ)
  • 研究期間:2003~2007年度
  • 研究担当者:武田尚人、西浦明子、山崎武志、長嶺慶隆(畜草研)、佐々木修(畜草研)、石井和雄(畜草研)