高泌乳牛の卵巣機能回復と発情回帰および受胎性

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要約

分娩後乳牛の80%は、4回の卵胞ウェーブまでに初回排卵する。初回発情は2回目排卵時に最も多いが、6%の牛では3回排卵まで無発情である。受胎率は、初回授精前の卵巣周期が3ウェーブの時2ウェーブと比べて高い傾向にあり、初回発情時の授精で高い。

  • キーワード:乳用牛、家畜繁殖、分娩、繁殖機能回復、卵巣、発情、受胎
  • 担当:北海道農研・畜産草地部・家畜生理繁殖研究室
  • 連絡先:電話011-857-9268、電子メールsaka99@affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・畜産草地、畜産草地
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

高泌乳牛の生産性を最大限に引き出すために、分娩後の適切な時期の受胎による、空胎期間(分娩間隔)の延長防止が求められている。分娩後の乳牛では、卵巣の活動が再開することに始まって、発情が回帰し、適切な人工授精によって受胎にいたる。これまでは、異常がなければ分娩後20日前後で初回排卵し、40日までには初回発情が起こるとされてきたが、高泌乳化に伴うこれらの遅れが、空胎期間延長の一因ではないかと推測されている。現代の高泌乳牛における卵巣機能再開から受胎に至る経過については、利用できる情報が極めて少ないことから、繁殖性低下に歯止めをかけるためには、まず卵巣機能回復から受胎までの経過を明らかにする必要がある。そこで、高泌乳牛における分娩後の卵巣機能の回復過程を超音波診断装置で調べ、現状を把握する。また、卵巣機能再開とその後の発情回帰および受胎性との関係についても明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 対象牛50頭(初産26頭、経産24頭)の、平均305日乳量(±標準偏差)は9,265±1,984kgで、乳量を除き、初産と経産との間に大きな差はない。平均初回排卵、発情および授精日は、30.9±17.1、55.2±21.4および71.5±18.1日であり、分娩後180日の時点で5頭(10%)が不受胎であり、受胎牛の平均空胎期間は89.6日である。
  • 分娩後2回目までの排卵の45%は1ウェーブで起こり(最初の主席卵胞が排卵)、初回排卵前の牛の20%では5回以上のウェーブの繰り返しや卵胞嚢腫の発生が見られる。卵巣周期は、3回目の排卵までにほぼ正常に回復する(図1)。
  • 初回発情は2回目の排卵時に最も多く観察され(48%)、ついで3回目の排卵時(36%)に多い。6%の牛では分娩後3回の排卵とも無発情である(図2)。
  • 初回授精前の卵巣周期が3ウェーブ(3番目の主席卵胞が排卵)の場合、2ウェーブの場合と比べて受胎率が高い傾向にある(P = 0.07)(図3)。2ウェーブでは、卵子が老化しすいと推測される。
  • 授精猶予期間を45日とした場合、初回発情時の人工授精では、それ以降の発情よりも受胎率が高い(P < 0.05)(図4)。
  • 分娩後2回目の排卵までは42%が無発情であり、初回発情で受胎率が高いことから、乳牛の繁殖性改善には、より確実な発情発見と早期の授精が重要である。

成果の活用面・留意点

  • 現代の高泌乳牛の受胎性改善について検討する際の、前提条件あるいは参考データとして活用できる。

具体的データ

図1.3回目排卵までのウェーブ(主席卵胞)数図2.初回発情時の排卵回数の分布

図3.初回授精前のウェーブ数と受胎率図4.初回授精前の発情回数と受胎率

その他

  • 研究課題名:高泌乳牛における分娩後の卵巣・子宮機能回復過程の解明、
    分娩後乳牛の受胎性向上に必要な条件の解明およびその簡易評価法の検討
  • 課題ID:04-05-01-*-04-02、04-05-01-*-13-03
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2000~2002年度、2003~2005年度
  • 研究担当者:坂口 実、山田 豊、青木真理
  • 発表論文等:1) 坂口ら(2003) 北海道畜産学会報 45:33-40
                      2) 坂口(2004) 酪農ジャーナル2003年度臨時増刊号, pp. 87-101
                      3) Sakaguchi et al.(2004) J Dairy Sci 87(7): 2114-2121.