十勝地方の土壌凍結深の顕著な減少および気候変動との関連

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要約

十勝地方の土壌凍結深は近年、顕著に減少しており、その要因は積雪深増加時期の前進による地表面の早期の断熱である。また、この減少傾向の開始時期は、北陸の降雪やオホーツクの流氷の減少と同様に、1980年代後半以降の冬型の勢力が弱まる時期と一致する。

  • キーワード:土壌凍結、気候変動、積雪、東アジアモンスーン
  • 担当:北海道農研・寒地温暖化研究チーム
  • 連絡先:電話011-857-9260、電子メールseikajouhou@ml.affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・生産環境、共通基盤・農業気象
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

北海道・十勝地方は厳寒・少雪のため、土壌凍結地帯として知られているが、近年、暖冬により土が凍らなくなってきたと言われている。しかし、その実態は不明である。一般に、シベリア高気圧が発達して冬の東アジアモンスーンの勢力が卓越する、いわゆる冬型の勢力が強い年は、十勝地方では晴天日が多く少雪で土壌凍結が発達し、逆に日本海側で積雪が多い。十勝地方の降雪は、冬型の勢力が崩れた時の温帯低気圧の通過で生じる。ところで、1980年代後半以降の気候変動により、冬型の勢力が弱まる傾向にあることが報告されている。これを示す現象として、冬型の勢力の指標となる北陸地方平野部の降雪深やオホーツク海沿岸部の流氷量が顕著に減少していることが知られている。そこで、土壌凍結の長期傾向を解明し、さらにその要因について、上記の気候変動との関連を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 十勝地方・芽室町における20年間 (1986-2006)の土壌凍結深観測によると、年最大土壌凍結深は減少している(図1、p<0.05)。
  • 一方、日平均気温が0°C以下の日の気温絶対値を積算した寒さの指標(積算寒度)は減少していない。つまり、気温は土壌凍結深減少の要因ではない(図1)。ところで、雪には断熱作用があり、土壌凍結が発達するのは日平均気温が0°C以下で積雪深20 cm以下の期間である。近年、積雪深が20cmを越える時期が早まる傾向にあり(図2、p<0.05)、積雪深20 cm以下の期間の積算寒度も減少している(図1、p<0.05)。つまり、初冬における積雪深の増加が早まる傾向にあることが土壌凍結深減少の直接要因である。
  • 積雪深20 cm以下の期間の積算寒度の平方根である土壌凍結指数は年最大土壌凍結深と高い相関関係にある(r2=0.71)。そこで、十勝地方全体のアメダス観測地点の長期の土壌凍結指数を求めると、減少傾向を示している地点は十勝地方平野部全体に分布している(図3)。
  • 帯広の過去50年の土壌凍結指数を見ると1980年代後半から減少している。この減少の開始時期は北陸地方平野部の降雪深やオホーツク海沿岸部の流氷量が減少(図4,両者共にp<0.05)傾向を示す時期と一致し、冬型の勢力が弱まる時期からである。

成果の活用面・留意点

  • 気候変動に伴う土壌凍結深の減少が農業に及ぼす影響を評価する際の基礎資料として用いることができる。
  • 世界の寒冷気候帯の中でも南限にある日本の雪氷現象が1980年代後半以降に大きく変動していることを示す資料として活用できる。

具体的データ

図1 十勝地方芽室町(北海道農研芽室研究拠点)での最大土壌凍結深、積算寒度、積雪深が20cmになるまでの積算寒度)の年々変動

図2 十勝地方芽室町(アメダス観測地点)における積雪深が20 cmを越えるまでの日数

図3 十勝地方のアメダス観測地点の土壌凍結指数の減少傾向分布図

図4 a) 十勝地方帯広における土壌凍結指数、b) 北陸地方平野部の降雪深c) オホーツク沿岸の流氷量の年々変動 b)とc)は20世紀の日本の気候、気象庁(2002)に一部データを加えたもの

その他

  • 研究課題名:寒地における気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 課題ID:215-a
  • 予算区分:環境省地球一括
  • 研究期間:2005~2007年度
  • 研究担当者:廣田知良、岩田幸良、鈴木伸治、鮫島良次、濱嵜孝弘、Hayashi Masaki (カナダ・カルガリー大)、
                      高藪出(気象庁・気象研究所)
  • 発表論文等:Hirota et al. (2006); J. Meteorol. Soc. Jpn, 84, 821-833