ササ侵入にともなう高層湿原の温室効果ガス発生量の増大

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

開発にともなう地下水位の低下により、ササが侵入して高層湿原が荒廃すると、二酸化炭素発生量が有意に増大し、メタンと亜酸化窒素を込みにした温室効果ガス総発生量も増大する。その要因は、光合成による炭素固定量が低下することである。

  • キーワード:高層湿原、荒廃、ササ、温室効果ガス、地下水位低下、地球温暖化指数
  • 担当:北海道農研・寒地温暖化研究チーム
  • 連絡先:電話011-867-9260、電子メールseikajouhou@ml.affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・生産環境、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

湿原は、その水質浄化機能や生物多様性が注目されているが、泥炭中への有機物の蓄積により、温室効果ガスの発生量が少なくなることも期待される。しかし、北海道の湿原は開発にともなう地下水位の低下により、現存する高層湿原にはササが侵入し、環境が変化することによって温室効果ガスの発生量が多くなることも危惧される。そこで、ササの侵入が見られる高層湿原において温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素)発生量と光合成・生態系呼吸量を求め、湿原植生の変化が地球温暖化におよぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 美唄湿原内の高層湿原植生区、湿原-ササ植生混在区、ササ植生区に調査地点を設置した(図1)。
  • 年間の二酸化炭素発生量(NEE)には植生区間に有意差が認められ、高層湿原植生区(平均値5.8g C m-2 y-1)≪湿原-ササ植生混在区(同128.9)<ササ植生区(同223.8)である(表1)。
  • 年間のメタン発生量は6.3~13.2 g C m-2 y-1、亜酸化窒素発生量は0.003~0.032 g N m-2 y-1の範囲で、いずれも高層湿原植生区で高くなる傾向がみられた(表1)。
  • 温室効果ガスは同一重量でも地球温暖化へおよぼす程度が異なる。地球温暖化指数を用い、メタン、亜酸化窒素の重量を21倍、310倍して同じ影響を持つ二酸化炭素の重量に換算し植生区毎に合計すると、高層湿原植生区<ササ-湿原植生混在区<ササ植生区となる。(表2)。
  • 二酸化炭素に換算した温室効果ガス発生量の内訳をみると(表2)、二酸化炭素(NEE)の差が温室効果ガス総発生量に影響している。大気へ放出される炭素量(呼吸)には植生区間で大きな違いが認められないが、植生へ取り込まれる炭素量(光合成)は、高層湿原植生区、ササ・湿原植生混在区、ササ植生区の順で顕著に大きい傾向があった。このことは、光合成の減少、すなわち生態系への炭素固定能の低下が、ササ進入による温室効果ガス発生量増大の要因であることを示している。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で得られたデータは、サロベツ-石狩地帯(日本海斜面多雪地帯)のローンと呼ばれる平坦な高層湿原を対象としたもので、同様の湿原のオリジナルデータとして温室効果ガスの研究に活用出来る。
  • ササは、背丈が40cm以下のものを対象とした。対象としたササはチマキザサである。

平成18年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題および区分
「石狩川泥炭地の土地利用と温室効果ガス-湿原、水田、転換畑の比較-」(研究参考)

具体的データ

図1 美唄湿原およびサンプリング地点位置図.

表1 二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素の年間発生量

表2 二酸化炭素に換算した温室効果ガス発生量(平均値±S.D., g CO2 m-2 y-1)

その他

  • 研究課題名:寒地における気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 課題ID:215-a.1
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2002~2006年度
  • 研究担当者:永田 修、鮫島良次
  • 発表論文等:1)Nagata et al.(2005), Phyton, 45(4), 299-307
                      2)Takakai et al.(2005), Phyton, 45(4), 319-326