GPSの位置情報で放牧搾乳牛の採食行動時間を推定する

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要約

簡易GPSの位置情報から得られる、おおむね0.25~0.70km/時の速度で牛が歩行している時間帯を採食行動時間とみなすことができる。約0.25km/時の遅い速度で、歩行範囲が狭ければ非採食時間であるので、歩行範囲を確認する。

  • キーワード:放牧、乳用牛、GPS、集約放牧、採食行動、搾乳牛
  • 担当:北海道農研・集約放牧研究チーム
  • 連絡先:電話011-857-9260、電子メールseikajouhou@ml.affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・畜産草地、畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

放牧では牛は歩行して採食するので、放牧中の歩行時間により採食行動時間(飲水場等への歩行時間など含む)を推測できる可能性がある。特に搾乳牛では放牧地面積は広くはないので、水飲場等への歩行時間の影響は小さい。そこでGPSで得られる放牧地内の歩行時間と首式バイトカウンタ-で記録した採食時間を比較し、位置情報による歩行速度から採食行動を推定することの適否を検討する。

成果の内容・特徴

  • 平坦な牧区(草丈約30cm)での放牧草採食中の歩幅は約83cmで、平均11.5秒間隔で1歩前進したことから、放牧草採食中の歩行速度は平均0.29 km/時と推測される。
  • 放牧牛の頭部に装着したハンディタイプGPSの位置情報を、地図画像「数値地図25000国土地理院)を用いてフリーソフト「カシミール」で処理すると、放牧地の牛の歩行速度は、牛舎から放牧地への歩行のように速度が4km/時程度の時間帯、放牧地で採食のため速度を低下させた時間帯、伏臥で停止した時間帯の3種に明確に分かれる(図1の事例1)。夏期においては、放牧地内歩行速度がやや遅い場合であっても採食行動を伴わない例もみられるが、この場合、搾乳牛の歩行範囲は狭い(図1の事例5)。
  • バイトカウンターにより採食が確認された時間帯におけるGPSデータから計算した平均歩行速度は、おおむね0.25~0.70km/時で(図2)、速度の最低値は歩幅から求めた歩行速度と近い。
  • 以上から、GPSの位置と時間の情報をフリーソフト「カシミール」の速度に変換し図で、牛が低速(おおむね0.25~0.70km/時)で歩行している時間帯を採食行動時間とすることができる。最低値のおよそ0.25km/時の遅い速度で歩行し、かつ、GPSによる放牧牛の歩行範囲が狭ければ非採食とみなす(図2の(1)、(2)、図1のA)。
  • GPSを用いた採食行動時間の活用例として、同一牧場で水槽の有無と放牧牛の行動を調査した結果、水槽増設調査事例では未増設調査事例より日中の採食行動時間は短いが、飲水可能になった牧区(図3の(6)~(9))での滞在時間および採食行動時間は長い傾向にあることがわかる(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 放牧牛の位置とともに採食行動時間が推定できる。夜間の採食行動時間の測定に便利である。
  • 集約放牧を実施している酪農家の草量の十分で平坦な放牧地で得られた成績であり、傾斜地では本成績の速度は指標として使用できないと思われる。今回使用したGPSでは、一秒間隔で位置情報を収集するため電池の消費が大きく、記憶できる情報の容量も限界があるため、測定時間は24時間以下である。

具体的データ

図1 GPSによる歩行距離の表示例

図2 搾乳牛8例のGPSデータから推測した採食行動時間(G)と首式バイトカウンタ-による採食行動時間(B)の比較(左)、およびGPSデータから表計算ソフトで求めた歩行速度(右)

図3 調査牧場の放牧地レイアウト

表1  水槽増設による牛の滞在牧区の変化と推定採食行動時間(n=2、3)

その他

  • 研究課題名:地域条件を活かした健全な家畜飼養のための放牧技術の開発
  • 課題ID:212-d
  • 予算区分:集約放牧
  • 研究期間:2003~2006年度
  • 研究担当者:篠田満、須藤賢司、松村哲夫、梅村和弘