アラキドン酸は牛胎子胎盤由来培養繊維芽細胞のマトリックスメタロプロテアーゼを活性化する

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要約

牛胎子胎盤由来培養繊維芽細胞にアラキドン酸を添加すると、迅速な細胞剥離が誘導される。この反応は一般的なプロテアーゼではなく、マトリックスメタロプロテアーゼにより引き起こされている。また、アラキドン酸はプロスタグランジンではなく、リポキシゲナーゼ誘導体を経由して作用している。

  • キーワード:ウシ胎盤、マトリックスメタロプロテアーゼ、胎盤由来培養繊維芽細胞、アラキドン酸
  • 担当:北海道農研・自給飼料酪農研究チーム
  • 連絡先:電話011-857-9260、電子メールseikajouhou@ml.affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・畜産草地、畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

繁殖障害のひとつである胎盤停滞は子宮内膜炎を誘発し、泌乳量の低下、次回の受胎の遅延等により畜産農家に大きな経済的損失を与える。その原因は種々想定されているが、分娩後に胎子胎盤と母胎盤の分離が正常に行われないことが主因である。この問題の原因解明と対応技術が待たれるが、本研究分野に関しては、胎子の娩出機構についての知見は膨大であるが、胎盤の剥離機構については情報が少ない。その一因として動物実験の困難さがあげられる。本試験は、動物実験の代替法として培養細胞を用いることが特徴である。胎盤の剥離にはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の関与が推定されていることから、その主たる生産細胞である繊維芽細胞を胎盤から調製し、その活性化機構について検討する。

成果の内容・特徴

  • 分娩前の牛の胎子胎盤(妊娠4~9ヶ月)から調製した培養繊維芽細胞にアラキドン酸を添加すると迅速な細胞の剥離が観察される。この反応はプロスタグランジン合成酵素であるシクロオキシゲナーゼの阻害剤(Indomethacin)で阻止されない。また、プロスタグランジン(PG)F2α、E2を添加しても細胞の剥離は観察されない。(図1)これらのデータはアラキドン酸がプロスタグランジンに変換されて作用しているのではないことを示す。
  • アラキドン酸による細胞剥離はEDTA(一般MMP阻害剤)添加で阻止され、またマトリックスメタロプロテアーゼ2,9阻害剤(MMP-2,9 inhibitior)で抑制される。一方、一般的なプロテアーゼ阻害剤(Leupeptin、PMSF、Pefabloc)には抑制効果はみられない。(図2)これらのデータは細胞剥離がマトリックスメタロプロテアーゼに担われていることを示す。
  • アラキドン酸のリポキシゲナーゼ阻害剤の中で、12-リポキシゲナーゼ阻害剤(Baicalein)のみに細胞剥離を抑制する活性がある。(図3)このデータはアラキドン酸が12-リポキシゲナーゼで変換されて細胞剥離を引き起こしていることを示す。
  • 以上のことから、分娩後の胎盤剥離に関与すると推定されている胎盤マトリックスメタロプロテアーゼの活性化は、分娩シグナルに反応して細胞膜から遊離するアラキドン酸の12-リポキシゲナーゼ誘導体への変換により誘導される可能性を示している。

成果の活用面・留意点

  • 動物実験では解析の難しい胎盤剥離の研究を補う有力なインビトロの実験系となる。
  • 本試験で得られた知見は、胎盤停滞防止技術及び胎盤停滞を伴わない分娩誘起法の開発のための基礎データとなる。
  • 牛胎子胎盤は食肉処理場(屠場)で入手できる。

具体的データ

図1.アラキドン酸及びプロスタグランジンによる誘導細胞剥離誘導の有無

図2.アラキドン酸誘導細胞剥離に対する種々のプロテアーゼ阻害剤の効果

図3.アラキドン酸誘導細胞剥離に対するリポキシゲナーゼ阻害剤の効果

その他

  • 研究課題名:自給飼料の高度利用による高泌乳牛の精密飼養管理技術と泌乳持続性向上技術の開発
  • 課題ID:212-g
  • 予算区分:科学研究費補助金(基盤研究B)
  • 研究期間:2004~2006年度
  • 研究担当者:鎌田八郎、上田靖子、村井勝