イネのトレハロース生合成酵素の多重性と植物特異的な酵素機能
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要約
ゲノム上の多重性(同一機能遺伝子が複数存在すること)、遺伝子応答、酵素活性においてイネのトレハロース生合成は微生物、動物のそれとは大きく異なる。一過的なトレハロース生合成の活性化は、植物特異的な糖シグナリングの存在を示唆する。
背景・ねらい
トレハロースは微生物や昆虫で多量に蓄積し、貯蔵糖や血糖として働く。また、乾燥等のストレス時の生体膜やタンパク質の保護物質でもある。近年、植物においても微量のトレハロース生合成が認められ、トレハロース及びその前駆体トレハロース6リン酸の糖シグナル機能が注目されている。トレハロース生合成はトレハロース6リン酸合成酵素(TPS)及びトレハロース6リン酸脱リン酸化酵素(TPP)の2段階反応により行われる。我々はイネおいて低温ストレス下における一過的なトレハロース蓄積を発見し、それにOsTPP1遺伝子が関与することを見出している。本研究では、イネを材料として植物のトレハロース生合成の環境ストレス応答における調節機能を明らかにすることを目的としている。
成果の内容・特徴
- 微生物や動物ゲノム中のトレハロース生合成遺伝子は1-2コピーであるが、植物ゲノムでは10コピー前後と多重化しており(図1)、各遺伝子が複雑な制御を受けると推測される。
- イネ全TPP遺伝子のうち、栄養組織において発現する主要遺伝子は、OsTPP1及びOsTPP2である(データ省略)。
- 単離されたOsTPP2遺伝子は、酵素活性をもつTPPをコードし、低温、乾燥、アブシジン酸により一過的に誘導されるが、その蓄積パターンはOsTPP1と異なる(図2)。
- 微生物酵素に比較して、イネ由来の酵素(OsTPP1、 OsTPP2)は、基質特異性が高く、ミカエリス定数が小さい。これは細胞内での低い基質濃度を反映している(図3A)。
- イネのTPP酵素は熱安定性が低い。一過的な酵素活性変動に適応している(図3B)。
- イネのストレス応答におけるトレハロース生合成の一過的活性化は遺伝子発現および酵素機能レベルにおいて支持される。トレハロースのシグナル分子機能が示唆される。
成果の活用面・留意点
- 植物におけるトレハロース生合成の重要性とそのシグナル機能の解明に向けての基本情報となる。
- トレハロース生合成の調節によるストレス耐性強化法の開発は今後の課題である。
具体的データ



その他
- 研究課題名:作物の低温耐性等を高める代謝物質の機能解明とDNAマーカーを利用した育種素材の開発
- 課題ID:221-e
- 予算区分:基盤研究費
- 研究期間:2004~2006年度
- 研究担当者:今井亮三、島周平、M. Habibur Pramanik、松井博和(北大)、田原哲士(北大)
- 発表論文等:1)Pramanik, M.H.R and Imai, R. (2005) Plant Mol Biol, 58: 751-762.
2)Shima, S. et al. (2007) FEBS J. 274:1192-1201.