トリプトファン含量の高いダイズおよびアズキ形質転換体
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要約
イネ改変型アントラニル酸合成酵素αサブユニットを発現したダイズとアズキでは遊離トリプトファン含量が著しく増加し、全トリプトファン含量は非組換え体の約2倍に増加する。
背景・ねらい
ヒトを含む動物はトリプトファンやメチオニン、リジンなどのアミノ酸を合成することができず、食物から摂取する必要がある。マメ科作物はタンパク質含量が高く、イネ科作物と併用することにより飼料としての栄養性を高めている。しかし、このような飼料においても必須アミノ酸が不足しており、発酵工業により生産された遊離アミノ酸を必要に応じて添加している。このうちトリプトファンの生産が最も高コストである。一方、マメ科作物は共生根粒菌によって空気中の窒素を固定することから、低コストでアミノ酸を生産することが可能である。そこで、トリプトファンによるフィードバック阻害に対する感受性の低下したイネアントラニル酸合成酵素αサブユニット遺伝子(OASA1D)を導入することにより、トリプトファンを高度に蓄積したマメ科種子作物(ダイズとアズキ)を開発する。
成果の内容・特徴
- 組換え体はカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)あるいは子葉特異的プロモーター(gy2)と接続したイネ改変型アントラニル酸合成酵素遺伝子を含む。
- 固定系統は正常に生長、開花結実し、種子の遊離トリプトファン含量はダイズでは3.4~8.1 mg/g、アズキでは1.3~3.3 mg/gであり、非組換え体(それぞれ、0.16 mg/gと0.21 mg/g)と比較して21~51倍に増加する(図1)。
- 組換え種子の固定態(構造)トリプトファン含量は変化せず、全トリプトファン含量はダイズでは7.9~12.5 mg/g、アズキでは3.6~5.7 mg/gであり、非組換え体(それぞれ、4.6 mg/gと2.7 mg/g)と比較して約2倍に増加する(図1)。
- 組換え種子において、トリプトファンを除き芳香族アミノ酸代謝物質は大きな変動を示さない(図2)。
成果の活用面・留意点
- トリプトファンを高度に蓄積するダイズとアズキの種子は、飼料ならびに飼料添加物素材として利用できる可能性がある。
- 組換え体はトリプトファン類似物質である5-メチルトリプトファンによるフィードバック阻害を受けないことから、OASA1Dはダイズやアズキの組換え体の選抜マーカーとして使用できる可能性がある。
具体的データ


その他
- 研究課題名:作物の低温耐性等を高める代謝物質の機能解明とDNAマーカーを利用した育種素材の開発
- 課題ID:221-e
- 予算区分:戦略的創造研究推進事業(CREST)
- 研究期間:2001~2006年度
- 研究担当者:石本政男、若狭暁(東京農大)、宮川恒(京大院農)、中本有美(科学技術振興機構)
- 発表論文等:Hanafy et al. Plant Science 171:670-676 (2006)
特開2006-081517 発明の名称「Trp含有ダイズ、およびその利用」