プラスチックカップを用いたジャガイモシストセンチュウの簡易検出・密度推定法

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要約

小型の蓋付き透明プラスチックカップに検診土壌と種いもを入れ、暗黒で約50日保存すると、ジャガイモシストセンチュウを含む土壌ではカップ底面および側面から目視でシストが検出できる。このシスト寄生程度から簡便に土壌中の線虫密度が推定できる。

  • キーワード:ジャガイモ、ジャガイモシストセンチュウ、土壌検診、簡易検診、定量
  • 担当:北海道農研・バレイショ栽培技術研究チーム
  • 連絡先:電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・生産環境、共通基盤・病害虫(虫害)
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

近年、ジャガイモシストセンチュウの急速な発生拡大に伴い、各地で土壌検診の実施が進んだ。しかし、従来の検診法では専用施設と熟練を要し、煩雑さから、正確な線虫密度調査はほとんど実施されない。線虫抵抗性品種選抜法として開発されたカップ検定法(平成14年度北海道農業研究成果情報)は、透明カップに検定いもと汚染土壌を入れ、暗黒下で培養することで、根に形成されるシストの有無をカップ外側から簡便に判定することを可能とした。そこで、この検定法を応用し、誰でも正確で簡便に、多検体土壌サンプルから、ジャガイモシストセンチュウの有無と密度推定が可能な土壌検診法を開発す
る。

成果の内容・特徴

  • 既製の小型蓋付き透明スチロールカップに検診土壌と感受性品種の小粒いもを入れ (図1上)、暗黒に保つと、ジャガイモシストセンチュウ生存土壌は、白い根の表面に黄~褐色のシストを形成する。このシストは、カップ側面および底面から肉眼あるいはルーペ等で簡単に判別できる(図1下)。
  • 図1のカップに、粘りけのない湿潤~乾燥土壌(40~33g目安)と催芽処理した10~20gの種いもを入れ、平均気温16~24°Cの室内で、期間中2回前後の灌水を行い、植付52~60日後に観察を行うことにより、最適でほぼ一定の検診結果が得られる。以上の検診手順を図2に示す。
  • 同一土壌・量を用いた場合、従来法のふるい分け-卵計数法(土壌中の卵の有無)とカップ法(形成シストの有無)による線虫検出割合と検出限界はほぼ同等である(表1)。カップ法は死卵を検出しないため、圃場実態をより反映した線虫有無の判定ができる。
  • カップ法による側面+底面の形成シスト合計数と従来法による卵密度(80卵/g乾土まで)は、高い相関関係にある(図3)。形成シストの概数から、線虫低密度(ほぼ減収無し)、中密度(10~40%減収)、中~高密度(50%以上減収の可能性)が推定できる。
  • 道産種いもは休眠の関係上、収穫当年12月~翌5月の検診に適し、マイクロチューバー(MT)は全期間利用できる。MTを密度推定に用いる場合、2g以下では根量の関係で形成シスト数が減少し、密度推定の回帰式が異なる(図3、MTニシユタカ1gの例)。

成果の活用面・留意点

  • 従来法の採用が困難な施設・機関でも、高精度なシストの検出が可能である。既発生地域では、線虫密度に応じた作付け体系の策定や防除技術の導入に利用できる。
  • 検診土壌の採取に当たっては、従来の方法(北海道ジャガイモシストセンチュウ防除対策基本方針、最終改正平成19年、北海道農政部、等)に準じ、圃場全体からまんべんなく採取した後、良く混合する。
  • 本検診法では種いも発根の良否が結果に影響するため、不良いもの使用、土壌水分過多、検診土壌に有機質多い場合等で、正しい結果が得られない例が確認されている。

具体的データ

図1 検診用カップ模式図(上)とカップ側面から見た、根に形成されるシスト(下)

 

図2 ジャガイモシストセンチュウのカップ検診法の実施手順

 

表1 同一土壌サンプルでのカップ法と従来法のジャガイモシストセンチュウ検出圃場数比較

 

図3 同一土壌サンプルでのカップ法と従来法の密度指標値の関係

その他

  • 研究課題名:病虫害複合抵抗性品種を中核とした新栽培体系による馬鈴しょ良質・低コスト生産技術の開発
  • 課題ID:211-e
  • 予算区分:高度化事業
  • 研究期間:2005~2007年度
  • 研究担当者:奈良部孝、植原健人、伊藤賢治、古川勝弘(道立北見農試)