近年浅くなった十勝の土壌凍結層は融雪水が浸透する

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要約

気候変動により現在の十勝地方の多くの箇所で最大土壌凍結深が20 cm程度までしか発達しない。そのため、火山灰土壌のように表層の透水性が高い農地では凍結層が存在しても融雪水が深層まで浸透し、その浸透量は凍結層が無い場合と同じである。

  • キーワード:土壌凍結、積雪、土壌水分移動、火山灰土壌、融雪期
  • 担当:北海道農研・寒地温暖化研究チーム
  • 連絡先:電話011-857-9260、電子メール seika-narch@naro.affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・生産環境
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

日本の代表的な土壌凍結地帯とされてきた十勝でも近年は気候変動に伴い凍結深の顕著な減少が報告されている。土壌は凍結すると極端に透水性が低下し、融雪水が土壌中に浸透しない性質があるため、近年の凍結深の減少により融雪期の物質循環が大きく変化している可能性がある。例えば、十勝中部の農地では過去には窒素肥料成分が表層付近に残っていた例が報告されているが、現在の観測では肥料成分が溶脱されて有効土層内にほとんど残存していないことが知られている。窒素肥料成分は水と一緒に動くため、この原因として凍結深の減少に伴って融雪水の浸透が促進されたことが考えられる。しかし、積雪・土壌凍結条件下で土壌水分移動を測定することが難しいため、冬期の土壌中の水移動様式はほとんど明らかにされておらず、気候変動の応じた技術の開発に重大な障害を生じていたが、土壌水分の移動を詳細に観測するためのセンサーの開発等により、土壌水分移動のデータを蓄積することが可能になりつつある。 そこで、これらのセンサーから得られた融雪期の土壌水分移動の観測データから土壌水分移動を定量的に解析するための手法を開発し、凍結深が浅い条件での融雪水浸透の特徴を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 融雪水量、土壌水分プロファイルおよび下層の異なる2深度の土壌水分ポテンシャルを測定し、土壌水分プロファイルから求めた水分貯留量の変化(ΔS )と下層の異なる2深度の土壌水分ポテンシャル勾配と透水係数から鉛直下向きの積算フラックス(Σq )を計算することで、融雪水の土壌への浸透量を推定できる(図1)。
  • 土壌凍結深が20cm程度発達した年(2002年と2003年)も、凍結しなかった年(2004年と2005年)も、融雪水量(ΣM )に対する浸透量(ΔSq )の割合は0.8~1.0であり、ほぼ等しい(表1)。
  • したがって、表層土壌の透水性が高い場合には20cm程度の土壌凍結層が発達しても融雪水の浸透量は土壌が凍結していない場合と同じと考えてよい。
  • 凍結層が20cm程度発達しても融雪水の浸透を抑制しない原因として、多量の積雪により土壌が断熱されることで凍結層の地温が低下せず(融雪期直前の凍結層の地温は-0.1°C以上)、融雪水が凍結層内で再凍結しないことが考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 従来は土壌凍結が浅い場合でも融雪水の浸透が阻害されると考えられてきたが、それが必ずしも成り立たない場合があることを本成果は示している。
  • 本試験は表層の透水性が高い火山灰土壌畑での結果である。

具体的データ

図1 融雪水の土壌への浸透量の評価の概念図

 

表1 試験圃場における各年の最大凍結深、融雪水の土壌への浸透量

その他

  • 研究課題名:積雪・土壌凍結条件における土壌水分移動
  • 課題ID:215-a
  • 予算区分:地球環境保全費(環境省)・基盤
  • 研究期間:2001~2007年度
  • 研究担当者:岩田幸良、広田知良、林正貴(カルガリー大理)
  • 発表論文等:Iwata Y.et al.(2008)Vadose Zone Journal. 7(1):79-86.