低分子熱ショックタンパク質遺伝子の過発現によるイネの水ストレス耐性の向上

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

低分子熱ショックタンパク質遺伝子sHSP17.7 を過発現させたイネ幼苗は、乾燥処理およびポリエチレングリコール処理により原品種と同等に水ポテンシャルが低下するが、復水後の生存率は原品種よりも高く、水ストレス耐性が向上している。

  • キーワード:低分子熱ショックタンパク質遺伝子、sHSP17.7、水ストレス耐性、イネ
  • 担当:北海道農研・低温耐性研究チーム
  • 連絡先:電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・生物工学
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

環境ストレスは植物細胞内で、酸化ストレスと水ストレスをもたらすと考えられている。イネ幼苗を予め42℃で処理すると種々の環 境ストレス耐性が向上するが、高温により誘導される低分子熱ショックタンパク質が水ストレス耐性の向上をもたらし、それが環境ストレス耐性の向上につな がっている可能性がある。そこで、イネ由来の低分子熱ショックタンパク質遺伝子sHSP17.7 を過発現させた形質転換イネを作出し、その水ストレス耐性の変化を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • sHSP17.7 形質転換系統では、発芽後10日目のシュートおよび根において、導入遺伝子の発現とsHSP17.7タンパク質の蓄積が認められるが、原品種では発現・蓄積していない(図1)。
  • 発芽後10日目の幼苗への灌水を6日間停止すると、形質転換系統・原品種ともに著しく萎れ、水ポテンシャルが低下する(表1)。処理期間中を通して一定の強さの水ストレスを与え続けられるポリエチレングリコール処理(30%PEG3640溶液中に地下部を3日間浸漬)によっても、地上部の水ポテンシャルは同様に低下する(表1)。したがって、これらの処理によって、形質転換系統・原品種ともに同程度に乾燥が進む。
  • 灌水を6日間停止した後に復水すると、原品種は全て枯死するが、形質転換系統は生育を再開する(図2A)。また、ポリエチレングリコール処理後、水に戻した後の生存率は、形質転換系統の方が有意に高い(図2B)。
  • 以上の結果から、sHSP17.7 の過発現は、イネの水ストレス耐性を向上させることが明らかであるが、水ポテンシャルに差がないことから、sHSP17.7タンパク質が植物体中で水分を保持することで乾燥を防いでいる可能性は低い。

成果の活用面・留意点

  • 植物の水ストレス耐性獲得機構解明の糸口となる。
  • 作物の環境ストレス耐性強化技術の開発に資する。

具体的データ

図1 sHSP17.7形質転換系統のシュート及び根における導入遺伝子の発現及びタンパク質の蓄積表1 イネ幼苗における乾燥処理及びPEG処理後の水ポテンシャル

 

図2 sHSP17.7形質転換系統の水ストレス耐性

その他

  • 研究課題名:作物の低温耐性等を高める代謝物質の機能解明とDNAマーカーを利用した育種素材の開発
  • 課題ID:221-e
  • 予算区分:委託プロ(ゲノム育種)
  • 研究期間:2005~2007年度
  • 研究担当者:佐藤 裕、横谷砂貴子
  • 発表論文等:
    1)Sato Y., Yokoya S. (2008) Plant Cell Reports 27:329-334
    2)佐藤ら(2004)「複合環境ストレス耐性イネ」特開2006-34252