生物防除微生物Pythium oligandrumによるトマト青枯病の抑制機構

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要約

Pythium oligandrumはトマトの根圏に定着しやすい特性を有しているが、この根圏定着性による競合作用で直接的にトマト青枯病菌の根圏からの感染を抑制するのではなく、根圏定着による抵抗性誘導によりトマト青枯病の発生を抑制する。

  • キーワード:生物防除、Pythium oligandrum、トマト青枯病、抵抗性誘導
  • 担当:北海道農研・根圏域研究チーム
  • 代表連絡先:電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
  • 区分:共通基盤・病害虫、北海道農業・生産環境
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

生物防除微生物であるPythium oligandrum(PO)は、細菌によって引き起こされるトマトの重要土壌病害である青枯病を抑制することが知られている。しかし、どのような機構により本病を抑制しているのかは明らかになっていない。そこで、POのトマト根圏での定着性、POの根圏定着量と青枯病抑制効果との関係、およびPOの根圏定着によるトマトの防御関連遺伝子の発現程度を解析することにより、POの青枯病抑制機構を解明する。

成果の内容・特徴

  • 殺菌畑土壌にトマト(品種:マイクロトム)を播種し、POの卵胞子を1植物体あたり5x102~5x106個施用する。3週間後にトマトの根圏土壌におけるPOの定着程度を解析すると、POは土壌への卵胞子施用量が多いほど、トマト根圏土壌における定着程度が高くなる(図1A)。
  • トマト根圏でのPOの動態を特異的染色法を用いて観察すると、土壌への卵胞子施用量の多いトマトほど、高頻度にPOが根部の表皮細胞および根毛の表面に定着する(図1B)。
  • POの卵胞子を施用した土壌で3週間育生したトマトに、青枯病菌を接種して発病抑制効果を調べてみると、卵胞子を5x104個以上施用した場合には無施用区より有意に発病抑制効果が認められる(表1)。しかし、5x106個処理すると5x104個処理区に比べて、POが根圏に約60倍多く定着しているのにもかかわらず、抑制効果の顕著な向上は認められない。また、接種後の根圏土壌における青枯病菌の菌量は、POの定着量の違いにほとんど影響されない(表2)。
  • POの卵胞子をトマトの根に処理した後に経時的にトマトの遺伝子の発現を解析すると、トマトのジャスモン酸シグナル伝達系の防御関連遺伝子PR6ATL6およびエチレンシグナル伝達系の防御関連遺伝子CASの発現が、蒸留水(DW)処理区に比べて顕著に上昇する(図2)。
  • 以上のことから、POの青枯病抑制機構は、トマト根圏でのPOと青枯病菌との直接的な競合作用が主因でなく、POの根圏定着によるトマトへの抵抗性誘導が主因であると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • POをトマト青枯病の微生物製剤として実用化させる際に、製剤の作用機作としての基礎情報となる。
  • POは広範な作物種に抵抗性を誘導する能力を有しているが、他の土壌病害の発病抑制機構に関しては、別途解析する必要がある。

具体的データ

図1 卵胞子施用量の異なる土壌で3週間育生したトマトの根圏でのPOの定着程度のリアルタイムPCR法(A)および顕微鏡観察(B)による解析

表1 卵胞子施用量の異なる土壌で3週間育生したトマトの青枯病による被害程度の比較(接種10日後)

表2 卵胞子施用量の異なる土壌で3週間育生したトマトに青枯病菌を接種した場合の根圏土壌における青枯病菌の菌量

図2 PO卵胞子処理によるトマトの防御関連遺伝子の発現解析

その他

  • 研究課題名:根圏域における植物-微生物相互作用と微生物等の機能解明
  • 課題ID:214-i.1
  • 予算区分:イノベーション創出
  • 研究期間:2004~2008年度
  • 研究担当者:竹中重仁、関口博之、増中 章、中保一浩(中央農研)、高橋英樹(東北大農)
  • 発表論文等:1)Takenaka S. et al. (2008) Phytopathology 98:187-195