土壌リン酸肥沃度と前作物からみたダイズ栽培でのリン酸減肥可能性

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要約

低リン酸土壌ではVA菌根菌宿主作物の前作効果による収量増はリン酸肥沃度が標準的な土壌よりも大きいものの、リン酸減肥は宿主作物跡でも収量低下傾向を示す。高リン酸土壌では前作に関わらずリン酸減肥が可能である。

  • キーワード:ダイズ、アーバスキュラー菌根菌、リン酸、宿主作物、有効態リン酸
  • 担当:北海道農研・根圏域研究チーム
  • 代表連絡先:電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・生産環境、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

前作物としてVA菌根菌(Vesicular-Arbuscular mycorrhizal fungi)の宿主作物を栽培すると土着VA菌根菌の密度が高まり、後作物のリン酸吸収が促進されて、生育・収量が高められることが知られている。これまでに北海道のダイズ栽培において土壌の有効態リン酸含量が10~20 P2O5 mg/100g程度の土壌においては、VA菌根菌宿主作物を栽培することで後作のダイズ栽培でリン酸減肥が可能であることを示してきた(H18北海道農業研究成果情報)が、ここではリン酸肥沃度のより低い土壌と高い土壌でのリン酸減肥可能性を検討する。

成果の内容・特徴

  • VA菌根菌宿主作物栽培跡では非宿主作物栽培跡や裸地跡に比較してダイズの収量増加が見込まれる(図1)。
  • 土壌の有効態リン酸含量が20 P2O5 mg/100g程度の土壌の場合、宿主作物栽培跡ではリン酸施肥量を施肥標準の15 P2O5 kg/10aから5 P2O5 kg/10aまで減肥しても収量の低下傾向は認められないが、非宿主作物栽培跡では減収する傾向にある(図1-a)。
  • 土壌の有効態リン酸含量が2 P2O5 mg/100g程度の土壌の場合、宿主作物の前作効果はより顕著となるものの、リン酸を減肥すると宿主および非宿主作物栽培跡のどちらも収量の低下する傾向にあり、この傾向は非宿主作物栽培跡でより大きい(図1-b)。
  • 土壌の有効態リン酸含量が58.9 P2O5 mg/100gの農家圃場では前作に関わりなくリン酸を減肥しても収量低下は認められなかった(図2)。また、宿主跡の増収効果もなかった。
  • 2004年から2009年までのリン酸減肥試験の結果をもとに、リン酸を標準から10 kg減らした時の相対収量と施肥リン酸量の直線回帰の傾きを縦軸にとって土壌の有効態リン酸含量との関係をみると、宿主作物栽培跡では有効態リン酸10 P2O5 mg/100g以上では傾きが0に近く減肥可能であることが分かる。非宿主作物跡では10~20 P2O5 mg/100gではリン酸を減肥すると収量が低下する傾向にある。また、有効態リン酸30P2O5 mg/100g以上では前作に関わらずリン酸減肥の影響がみられない傾向にある(図3)。

成果の活用面・留意点

  • ダイズ栽培における前作選択の参考とする。
  • VA菌根菌宿主作物栽培跡ではダイズ根の菌根形成率が非宿主作物栽培跡に比較して高まる。有効態リン酸含量が10~20 P2O5 mg/100g程度の土壌では、宿主作物栽培跡の播種後7~8週の菌根形成率は概ね50%以上であった。
  • 宿主跡でのダイズの増収効果は有効態リン酸含量が31.5 P2O5 mg/100gでも認められた。
  • 有効態リン酸はトルオーグ法による。

平成21年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分 「ダイズのリン酸吸収に対するVA菌根菌宿主作物の前作効果」(指導参考)

具体的データ

図1 前作物の種類が次作ダイズ収量に及ぼす影響

図2 前作物の種類が次作ダイズ収量に及ぼす影響( 2008 年・農家圃場の結果)

図3 リン酸 10 kg 減肥がダイズ収量に与える影響と土壌の有効態リン酸含量の関係

その他

  • 研究課題名:根圏域における植物~微生物相互作用と微生物等の機能の解明
  • 中課題整理番号:214i
  • 予算区分:委託プロ(生物機能)、委託プロ(省資源)
  • 研究期間:2004~2009年度
  • 研究担当者:岡紀邦、唐澤敏彦、建部雅子、岡崎圭毅、信濃卓郎