活性酸素消去系酵素遺伝子によるイネ穂ばらみ期耐冷性の強化
要約
低温下でのアスコルビン酸過酸化酵素活性の低下を緩やかにした形質転換イネの穂ばらみ期穎花では、原品種と比較して過酸化水素量と過酸化脂質量の増加が抑制されており、穂ばらみ期耐冷性が強化されている。
- キーワード:イネ、活性酸素、アスコルビン酸過酸化酵素遺伝子、穂ばらみ期耐冷性
- 担当:作物開発・利用・稲遺伝子利用技術
- 代表連絡先:電話 011-857-9260
- 研究所名:北海道農業研究センター・寒地作物研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
活性酸素は、低温をはじめとする種々の環境ストレスに生物が晒されたときに細胞内に発生する物質であり、細胞がこれを消去しきれなくなると膜脂質や核酸などが過酸化され、細胞機能に障害が生じる。イネは数種類の活性酸素消去系酵素遺伝子を持っているが、それらのうち、アスコルビン酸を基質として過酸化水素を無害な水に代謝するアスコルビン酸過酸化酵素(APX)遺伝子の発現が低温下では抑制されてしてしまう。そこで、このAPX遺伝子を低温下でも発現するプロモーターに連結して導入することにより、イネの穂ばらみ期耐冷性の強化を試みる。
成果の内容・特徴
- イネに存在するAPX遺伝子のひとつである細胞質APXaを低温下でも発現するプロモーター(E0082)に連結して導入したイネ形質転換系統APX1およびAPX12では、穂ばらみ期穎花における低温によるAPX活性の低下程度が原品種(おぼろづき)よりも有意に小さい(図1)。
- 形質転換系統APX1およびAPX12では、穂ばらみ期穎花における低温による過酸化水素量の増加が原品種に比べて有意に抑制されている(図2)。
- 形質転換系統APX1およびAPX12では、穂ばらみ期穎花における低温による過酸化脂質量の増加が原品種に比べて有意に抑制されている(図3)。
- 形質転換系統APX1およびAPX12では、小胞子初期に12°C6日間処理した後の稔実率が原品種よりも有意に高く、穂ばらみ期耐冷性が強化されている(図4)。
成果の活用面・留意点
具体的データ




(佐藤 裕)
その他
- 中課題名:次世代高生産性稲開発のための有用遺伝子導入・発現制御技術の高度化と育種素材の作出
- 中課題番号:112c0
- 予算区分:委託プロ(新農業展開ゲノム)
- 研究期間:2008~2011年度
- 研究担当者:佐藤裕、斎藤浩二、小沢憲二郎
- 発表論文等:Sato, Y. et al. (2011) Plant Cell Reports 30:399-406