テンサイの高度褐斑病抵抗性に関与するQTLの同定

要約

「NK-310mm-O」の高度褐斑病抵抗性には、qcr1およびqcr4の2つの褐斑病抵抗性QTLsが関与する。各QTLを単独ヘテロで保持した近似同質遺伝子系統は、戻し交配親の遺伝子型に比べてqcr1は約15%、qcr4は約45%平均発病指数が少ない。

  • キーワード:テンサイ、褐斑病抵抗性、QTL、DNAマーカー、組換え自殖系統群
  • 担当:業務需要畑野菜作・寒地畑野菜輪作
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・畑作研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

褐斑病は、テンサイ栽培で最も深刻な被害をもたらす病害のひとつであり、北海道では恒常的に発生するため、薬剤防除を複数回にわたり実施している。ところが、2010年には栽培面積のおよそ81%にあたる50,388haに褐斑病が大発生し、テンサイ産業は記録的な低収により大打撃を受けた。しかし、本病抵抗性の遺伝様式は複雑であり、環境の影響を強く受けるため、安定した検定や選抜を実施することが難しい難関育種形質である。

農研機構が保有する高度褐斑病抵抗性系統「NK-310mm-O」は、国内外の遺伝資源の中で最も強い抵抗性を示す。この褐斑病抵抗性に関する遺伝的背景が解明されれば、マーカー援用選抜など効率的な抵抗性育種システム構築のための近道になる。そこで、テンサイでは世界初の組換え自殖系統群を作出し、複数年にわたる圃場人為接種試験を通じてQTL解析を行う。また、抵抗性QTLを単独で持つ近似同質遺伝子系統を利用して、各QTLの遺伝効果を検証する。

成果の内容・特徴

  • 高度褐斑病抵抗性系統「NK-310mm-O」および同病罹病性系統「NK-184mm-O」の交配に由来する組換え自殖系統群(F6、n=80)を供試して、AFLP、CAPS、SSRからなる115個のDNAマーカーにより遺伝子型を調査すると、全長867cMの連鎖地図が構築できる(図1)。
  • 組換え自殖系統群の褐斑病発病指数について、CIM(Composite interval mapping)法によるQTL解析を行うと、Chr.3Chr.4Chr.6およびChr.9の4つの領域に褐斑病抵抗性に関与するQTLs(qcr1qcr4)が3年間共通して検出される(図1)。
  • 検出された4つのQTLsのうち、「NK-310mm-O」に由来する抵抗性QTLは、qcr1およびqcr4である(図1、表1)。
  • 2つの抵抗性QTLをそれぞれ単独ヘテロで保持する近似同質遺伝子系統を利用して遺伝効果を計測すると、qcr1はLODが6.1、寄与率が44.8%、qcr4はLODが15.7、寄与率が45.8%である。これらQTLを保持した個体は、戻し交配親「NK-184mm-O」の遺伝子型にくらべてqcr1は約15%、qcr4は約45%平均発病指数が少ない(表1)。
  • qcr1が座乗する染色体(Chr.3)には、黒根病抵抗性遺伝子Acr1(e45m26-10の近傍)および雄性不稔維持花粉親に特徴的に見られる遺伝子rf1(x)(MP-A16の近傍)も座乗し、これらは連鎖する(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 得られたマーカー情報は、褐斑病抵抗性育種のマーカー援用選抜に利用できる。
  • 組換え自殖系統群は、農研機構の規定に従って分譲できる。

具体的データ

図1 「NK-310mm-O」×「NK-184mm-O」の組換え自殖系統群(n=80)の連鎖地図とCIM法により検出された褐斑病抵抗性に関与するQTL
表2 各抵抗性QTLを単因子で保持する近似同質遺伝子系統を用いて評価したqcr1およびqcr4の遺伝効果

(田口和憲)

その他

  • 中課題名:業務用野菜・畑作物を核とした大規模畑輪作生産システムの確立
  • 中課題番号:113a1
  • 予算区分:実用技術、委託(イノベーション)
  • 研究期間:2005~2011年度
  • 研究担当者:田口和憲、阿部英幸、高橋宙之、岡崎和之、黒田洋輔、中司啓二
  • 発表論文等:Taguchi et al. (2011). G3-Genes Genomes Genetics 1:283-291