アゾスピリラム属細菌を簡単に識別できるPCRプライマーAz16S-A

要約

アゾスピリラム属細菌の分離工程において、開発した属特異的PCRプライマー(Az16S-A)を使用すると、本属菌株を他属株から簡単に識別できて、分離が容易になる。

  • キーワード:アゾスピリラム、PCRプライマー、属特異的、植物生育促進微生物、識別
  • 担当:総合的土壌管理・土壌生物機能評価
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

植物生育促進微生物が含まれるアゾスピリラム属(Azospirillum spp.)細菌は、農業上の有用性から、世界各地で分離と収集が行われている。しかし、本菌の分離には選択培地の利用と菌特性の評価を繰返す必要があるため、その収集には専門的知識や多大な労力を要する上に、例えば選択培地上での生育が遅い菌株は分離されにくいなど、分離過程でのバイアスが生じる懸念がある。本研究は、本属菌株を簡単に識別できる属特異的PCRプライマーを開発し、その分離を容易にする。

成果の内容・特徴

  • 既報のアゾスピリラム属細菌の16S rRNA遺伝子配列情報から設計したAz16S-A PCRプライマーセット(表1、以下属特異的PCRプライマーと呼ぶ)は、供試した12株のアゾスピリラム属細菌全てで予想した長さの断片を増幅した(図1(a))。一方で、15株の非アゾスピリラム属細菌では、一株を除き予想した長さのDNAの増幅は確認されなかった(図1(b))ことから属特異性が高い(図1)。
  • 他機関から分譲された35株のアゾスピリラム様菌株(選択培地での生育と生化学的性質、コロニーの形状などからアゾスピリラム属と推定されている菌株)、及び土壌や植物体から分離され、アゾスピリラム菌の選択培地で生育可能な70株の未知菌株を対象にして、属特異的PCRプライマーによるDNA増幅を調査し、その結果と16S rRNA配列解読による属同定の結果とを照合したところ、両者は完全に一致したことから本プライマーによる属識別能力は高く、実用的である(表2)。
  • 開発した属特異的PCRプライマーを用いると、25 μLの反応液中に10 μLの抽出DNAを鋳型として加えるPCRの場合、菌体濃度が103 CFU ml-1以上であればアゾスピリラム属細菌の存在を確認できる。またその検出感度は、他属細菌の混入による影響を受けない(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 属特異的PCRプライマーによる菌の識別は、一般的で安価なDNA抽出法、PCR法、試薬、機器類で可能である。
  • 属特異的PCRプライマーによる菌識別を利用すれば、従来の菌分離法(選択培地による単コロニー分離と純粋菌株を用いた生化学試験)と比べて、分離や菌の同定にかかる労力、時間、費用を削減できる。
  • 属特異的PCRプライマーの特異性と検出感度は、多様な菌種を混合して含む環境サンプルに対しては確認していない。

具体的データ

表1 アゾスピリラム菌の16S rRNA遺伝子配列情報に基づき設計したAz16S-A PCRプライマーセット
図1  PCRプライマーによるDNA増幅産物の電気泳動像
表2 属特異的PCRプライマーによるDNA増幅とrRNA遺伝子配列解析の結果比較
図2 各種の菌体濃度に対する属特異的PCRプライマーによるDNA増幅

(小林創平、大友量)

その他

  • 中課題名:土壌生物機能を核とした土壌生産力評価法の開発
  • 中課題番号:151c0
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2006~2011年度
  • 研究担当者:小林創平、志馬景子、大友量、池田成志、浅野亮樹、信濃卓郎
  • 発表論文等:1)Shime et al. (2011) J. Appl. Microb. 111:915-924
    2)小林、志馬 「プライマーセット、アゾスピリラム属菌の検出キット及び検出方法」 特許出願 2011年2月24日(特願2011-38657)