畑地における作物由来炭素投入量の推定および土壌炭素貯留量の将来予測

要約

北海道の畑作地帯では、作物純一次生産量の38%が作物残さや緑肥として土壌に還元されている。RothCによる将来予測では、現状のままでは土壌炭素貯留量は緩やかに減少し、畑全体への堆肥施用により緩やかに増加するが、作物残さ持ち出しにより急減する。

  • キーワード:土壌炭素貯留量、RothC、将来予測、作物残さ、収量統計
  • 担当:気候変動対応・気象災害リスク低減
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・畑作研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

地球温暖化防止に寄与する営農活動の推進にあたっては、土壌炭素貯留量の広域評価や将来予測が重要であるが、それらをモデル計算する上で、作物(作物残さや緑肥作物)由来の炭素投入量を正確に把握ことが重要である。しかし、この投入量は土壌、気象、作物(作目、品種)などの地域的条件によって異なるため把握が難しい。本研究は、北海道・十勝地域の畑地について、収量統計を用いた方法により、地域の農業の実態を反映した作物由来炭素投入量を推計することを目的とする。また、推計した炭素投入量を土壌炭素動態モデルに導入し、堆肥施用や作物残さ持ち出しなどの農地管理が地域全体の土壌炭素貯留量に及ぼす影響を予測する。

成果の内容・特徴

  • 十勝地域において、作物によるNPP(純一次生産量)は、秋まきコムギ、テンサイ、サイレージコーンで高い(図1)。作物由来の炭素投入量は、秋まきコムギ、テンサイ、緑肥エンバク(小麦の後作緑肥)で大きく、バレイショやマメ類で小さい。
  • 十勝全域(143,000ha)で見ると、現状ではNPP(95.2万t C yr-1)の38%が作物残さあるいは緑肥(36.0万t C yr-1)として土壌へすき込まれる(図2)。牛ふん堆肥由来の炭素投入量を加えると、1haあたりの年間炭素投入量は3.15tである。
  • 堆肥シナリオ(全農地に毎年20t ha-1の牛ふん堆肥を施用)では、堆肥からの炭素投入量が増加するため、1haあたりの炭素投入量は4.29tに増加するが、最小シナリオ(すべての地上部作物残さを持ち出し、小麦後の緑肥栽培や堆肥施用をしない)では、1haあたりの炭素投入量は0.63tに減少する(図2)。
  • RothC(土壌炭素動態モデル)を用いたシミュレーションの結果、現状シナリオでは十勝全域の土壌炭素貯留量は2010年の1,246万tから2050年の1,213万tに緩やかに減少する(図3、2010年比3%減)。
  • 堆肥および最小投入シナリオにおける2050年の土壌炭素貯留量は、それぞれ1,327(2010年比7%増)、982万t(同21%減)と予測される(図3)。堆肥および最小投入シナリオにおける土壌炭素貯留量の年変化率(現状シナリオ比)は、それぞれ+0.219、-0.445t C ha-1である。堆肥シナリオにおける温暖化緩和(CO2削減)効果は、年間0.80t CO2ha (0.219×44/12)である。

成果の活用面・留意点

  • 土壌炭素貯留量は、土壌中の有機物含量と関係があり、土壌の肥沃度を示す指標として重要である。土作り推進のための基礎資料としても活用できる。
  • 本研究で使用したRothCモデルの予測精度は、北海道を含む日本各地の長期連用試験の土壌炭素データを用いて、すでに検証されている(Shirato and Taniyama, 2003、Shirato et al., 2004)。

具体的データ

図1 十勝地域における作物別NPP(純一次生産量)および作物、牛ふん堆肥由来の炭素投入量
図2 十勝全域におけるシナリオ別NPP(純一次生産量)および作物、牛ふん堆肥由来の炭素投入量
図3 RothCモデルによる十勝全域の土壌炭素貯留量のシナリオ別将来予測

(古賀伸久)

その他

  • 中課題名:気象災害リスク低減に向けた栽培管理支援システムの構築
  • 中課題番号:210a3
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2010年度
  • 研究担当者:古賀伸久
  • 発表論文等:Koga N. et al. (2011) Agric. Ecosyst. Environ. 144 (1): 51-60