異なる通気条件下での牛ふん尿スラリー中環境負荷物質および細菌群集の動態

要約

牛ふん尿スラリーの通気処理では、通気量が高いほど低級脂肪酸および大腸菌数の低減化に必要な時間を短くすることができる。処理過程において低級脂肪酸など有機物の分解が活発な時期には、バチルス目細菌群の著しい優占化が認められる。

  • キーワード:牛ふん尿スラリー、通気量、大腸菌、低級脂肪酸、細菌群集
  • 担当:バイオマス利用・畜産バイオマス
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・酪農研究領域、畜産草地研究所・畜産環境領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

地域における有機質資源の有効利用の必要性が叫ばれる一方で、家畜ふん尿から発生する悪臭物質や病原性微生物の残存などの環境負荷が問題となっている。家畜ふん尿スラリーの通気処理は悪臭低減に効果的があり、その適正通気量は1~5m3-air/m3-slurry/hと報告されている。しかしその上限と下限の間には5倍の開きがあり、通気量の違いは環境負荷物質の推移や細菌群集の動態に大きな影響を及ぼすと考えられる。そこで本研究では、牛ふん尿スラリーを1、3、5m3-air/m3-slurry/h(順に低、中、高通気)に相当する通気量で処理した場合の、各々の条件下における悪臭物質および糞便汚染指標微生物である大腸菌数の推移と環境負荷低減に寄与していると考えられる細菌群集の動態を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 40°Cの恒温条件下で、0.5mmメッシュで固形分を除去した牛ふん尿スラリー3Lに対して散気管を通じて通気処理を行うと、主要な悪臭物質である低級脂肪酸濃度(VFA:C2-C5を測定)が検出限界以下まで低下するのに要する期間は、通気量が高いほど短くなる。一方で低通気処理では、総VFA濃度の上昇も認められ、処理前後でその濃度は大きく変化しない(図1A)。
  • 中、高通気処理では、大腸菌数は6日目以降には検出限界以下まで低下するが、低通気処理では処理終了時まで大腸菌が残存している(図1B)。
  • 経時的に採取した試料中の細菌群集の動態を16S RNA遺伝子をターゲットとしたT-RFLP(Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism)法で解析し、その推移を俯瞰的に見るために主成分分析によって解析すると、高通気処理では短期間に細菌群集構造に大きな変化が認められる(図2)。中通気処理での細菌群集の推移は高通気処理に近似した変化を示すが、低通気処理では細菌群集構造に顕著な変化は認められない。
  • 細菌群集の推移をクローンライブラリー法により解析すると、有機物分解が活発で総VFA濃度の低下が著しい時期には、Bacillales(バチルス目)のクローンの優占が認められる(図3)。バチルス目のクローンの著しい優占は高通気処理では0.5日目に起きているが、中通気処理ではそれよりも更に0.5日遅れて同様の現象が認められる。
  • 本研究で得られたバチルス目細菌群の塩基配列情報は、日本DNAデータバンク(DDBJ)のアクセッションナンバー:AB587678-AB587694に登録されているものである。

成果の活用面・留意点

  • 家畜ふん尿スラリーの通気処理において、通気量を設定する上での基礎的知見となる。
  • 本研究の結果は低通気量での処理を否定するものではなく、中、高通気処理よりも長い期間での処理が必要であることを示唆するものである。
  • 通気処理過程での環境負荷物質の動態は、本研究で示した通気量以外にもふん尿スラリーの性状(固形分の割合など)や温度に影響を受ける可能性がある。

具体的データ

図1 総VFA濃度(A)および大腸菌数(B)の推移図2 T-RFLPプロファイルを主成分分析にかけた時に得られる細菌群集の動態
図3 クローンライブラリー法で得られたクローンの相対的割合の経時的推移

(花島 大)

その他

  • 中課題名:畜産廃棄系バイオマスの処理・利用技術と再生可能エネルギー活用技術の開発
  • 中課題番号:220d0
  • 予算区分:委託プロ(バイオリサイクル)、交付金
  • 研究期間:2006~2011年度
  • 研究担当者:花島 大、福本泰之、安田知子、鈴木一好、前田高輝、森岡理紀
  • 発表論文等:Hanajima D. et al. (2011) J. Appl. Microbiol. 111(6): 1416-1425