堆肥切り返し直後の顕著なN2O排出は主に表層の脱窒菌によって生成される
要約
搾乳牛ふん尿堆積型堆肥化において、特に切り返し直後に多量に排出される一酸化二窒素(N2O)は、特に堆肥表層に含まれる微生物の脱窒作用によって生成、排出される。
- キーワード:堆肥、切り返し、一酸化二窒素
- 担当:自給飼料生産・利用・自給濃厚飼料生産
- 代表連絡先:電話 011-857-9260
- 研究所名:北海道農業研究センター・酪農研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
我が国の酪農業で排出されるふん尿のうち約70%は、主に堆積型堆肥化処理された後に農地へと還元されている。この堆積型堆肥化において、ふん尿中に含まれる窒素の一部は微生物の作用によって温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)へと変換され、大気中へ排出されることが知られている。環境調和に配慮した農業システムの構築のためには、これらの環境負荷物質の排出を低減する必要がある。これまでに、堆肥化過程においては切り返し(重機等による攪拌)直後に顕著なN2O排出が起こることが分かっているが、このN2O排出に主体に寄与している微生物群集については未だ明らかになっていない部分が多い。本成果では、特に切り返し直後の顕著なN2O排出に焦点を絞り一連の試験を行った。
成果の内容・特徴
- 本成果は4tの搾乳牛ふん尿に400kgの乾草を副資材として加え、8週間にわたって堆積し、2週間に一度の頻度で切り返しを行い、それぞれの切り返し直前に堆肥の表層、中心部より独立してサンプリングを行い、表層のみ、中心部のみ、中心部+NO2-(200mM,1mL)、表層と中心部の混合区それぞれ5gを100mLバイアルを用いてヘッドスペースを10%アセチレンで置換(N2O還元活性を阻害)した上で30°Cおよび60°Cで24-48時間培養し、生成されたN2OをGC-ECDで経時的に定量し、その分子内15N安定同位体比(Site preference; SP値)についてGC-IRMSを用いて調べた結果である。
- サンプル中のNOx-N蓄積量とN2O生成量には有意な相関関係がある(アセチレンなし;r=0.897,n=43,アセチレンあり;r=0.955,n=12)(図1)
- 30°Cで培養を行った場合、表層(頭頂部;Aおよび側部;B)を培養して得られるN2OのSP値はそれぞれ-2.5±0.6‰、3.8±3.6‰であり、フィールド試験で得られた値(2‰)と近い値を示すのに対し、中心部にNO2-を添加し培養して得られるN2OのSP値はそれぞれ堆肥化試験 1;19.6±4.2‰,試験2;20.3±2.7‰と有意に高い値を示す(図2)。
- 特に顕著なNO2-蓄積が認められる表層(頭頂部)と中心部を混合した区(堆肥化試験2)と表層(頭頂部)のみ(堆肥化試験2)を30°Cで培養して得られるN2OのSP値はそれぞれ7.0±4.6‰、5.2±2.8‰であり、両者に有意差はないが、中心部にNO2-を添加して得られるN2OのSPと比較して有意に低い(図2)。
- 60°Cで培養を行うと、表層(A)のみでも高いSP値(20.0±4.3‰)を示す(図2)。
- 以上の事実から、切り返し直後のN2Oは堆肥表層に存在する脱窒微生物が中温環境下で生成している。
成果の活用面・留意点
- 堆積型堆肥化におけるN2O排出低減策策定のための重要な基礎的知見となる。
- アンモニア酸化およびN2O還元を阻害(10%v/vアセチレン)条件下での試験であるため、高いSP値を示すN2Oの由来について現時点で説明不能であるため、カビ脱窒(37‰)の可能性の検討を含め今後の研究を要する。
- 堆肥表層の脱窒菌について今後詳細な研究が必要である。
具体的データ
その他
- 中課題名:大規模畑作地域における自給濃厚飼料生産利用技術の開発
- 中課題整理番号:120c5
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2010~2011年度
- 研究担当者:前田高輝、花島 大
- 発表論文等:Maeda K.et al.(2013) J.Hazard.Mater. 248-249:329-336