放牧後の残草量を少なくすれば放牧草の枯死部が減って栄養価が高まる

要約

放牧草の栄養価(TDN含量)を高く維持するためには牧草中の枯死部割合を減少させることが効果的であるため、放牧強度の調整などにより放牧後の残草量を少なくし、枯死の発生を抑制する管理を行うことが重要である。

  • キーワード:栄養価、枯死部、草量、ペレニアルライグラス、放牧、メドウフェスク
  • 担当:自給飼料生産・利用・草地活用乳生産
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・酪農研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

栄養要求量が高い搾乳牛向けに、高栄養草種を短草利用して栄養価(TDN含量)の高い放牧草を安定的に供給できる集約放牧技術を開発したが、放牧草のTDN含量は草地管理や季節・気象などの条件により変動する。このため、その変動要因を解明することにより、さらなるTDN含量の向上を図る余地がある。そこで、北海道札幌市(5-10月の日平均気温15.9°C、日平均降水量3.7mm)において、年1回の採草(放牧前の6月または放牧中に休牧して7月)と放牧利用が行われるペレニアルライグラス主体ならびにメドウフェスク主体シロクローバ混播草地を対象に、放牧草のTDN含量の変動要因を解析し、搾乳牛放牧技術の向上に資する。

成果の内容・特徴

  • 変数増減法により表1のデータを重回帰分析した結果によると、短草利用した放牧草のTDN含量は、放牧草中の枯死部割合の上昇により減少する(表2)。
  • 放牧草中の枯死部割合は、前回利用後に残された草量が多いほど増加する。また、休牧中の再生速度と日平均降水量の低下によっても増加するため、干ばつ時には通常よりも放牧草の栄養価低下に注意が必要である(表3)。
  • 放牧強度を上げると放牧後の残草量が少なくなり、地上部の乾物生産量は減少するが、利用率は向上し、放牧草の秋の枯死部割合が減少する(表4)。以上の関係は、草地の草種(ペレニアルライグラス、メドウフェスク)や採草時期(6月、7月)にかかわらず認められる。
  • 以上の結果から、放牧草のTDN含量を高く維持するためには牧草中の枯死部割合を減らすことが効果的である(表4最下段)。このためには、放牧強度の向上などにより放牧後の草量を少なく管理し、草地群落内の光線条件の悪化や夏季の蒸れによる牧草の枯死を抑制することがポイントとなる。

成果の活用面・留意点

  • ペレニアルライグラス、メドウフェスク草地に搾乳牛を放牧する場合に活用できる。
  • 放牧後草量を低くするためには、放牧採草兼用利用、掃除刈り(刈り倒し量が多い場合は搬出も考慮)も主要な方法であり、先行後追放牧の実施も選択肢となる。
  • 寒地型牧草の夏枯れが懸念される地帯では、夏季に放牧後草量が少ない場合に植生が衰退する可能性があるため、併給粗飼料を増給与する等、別途の検討が必要である。

具体的データ

表1~4

その他

  • 中課題名:草地の高度活用による低コスト乳生産と高付加価値乳製品生産技術の開発
  • 中課題整理番号:120d1
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1997~1999、2009~2012年度
  • 研究担当者:須藤賢司、落合一彦、池田哲也、梅村和弘
  • 発表論文等:須藤ら(2012)日草誌、58(3):137-145