バイオディーゼル燃料製造副産物を原料とした酵母による油脂生産

要約

ヤマブドウから分離した酵母Pseudozyma parantarctica TYC-2187株は、グリセリンから油脂への変換能が高く、油脂を菌体内に高濃度に蓄積する。蓄積した油脂の構成脂肪酸はバイオディーゼル燃料品質規格に適合すると示唆される。

  • キーワード:バイオディーゼル、油脂、トリグリセリド、酵母、グリセリン
  • 担当:バイオマス利用・エタノール変換技術
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・畑作研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

油糧植物から抽出した油脂(トリグリセリド, TG)は、食用油として使用した後、廃食用油の構成脂肪酸をメチルエステル化することでバイオディーゼル燃料として活用できるが、製造工程でグリセリン(Gly)が副生し、その有効利用法の開発が求められている。一方、油糧植物に代わる資源としてRhodosporidium 属などの油糧酵母の利用が注目されており、一部の酵母の菌種は培地中のグリセリン(Gly)を資化して、生成したTGを菌体内に蓄積する。従って、これらの酵母を用いてバイオディーゼル燃料製造工程で副生するGlyをTGに変換することで、効率的バイオディーゼル燃料製造工程の構築が可能と期待される。そこで、副生GlyからTGへの変換能が高い酵母を自然界から探索する。

成果の内容・特徴

  • Pseudozyma parantarcticaはヤマブドウ果皮に多く検出され、同果皮から分離されたTYC-2187株は、バイオディーゼル燃料製造工程で副生したGly(カリウム濃度2.48 wt%)を含む培地において多量のTG(11.9 g/L培地)を生産し、その量は当該菌種の標準株(CBS 10005T)および同属菌種(P. antarcticaおよびP. tsukubaensis)より多い(図1)。
  • TYC-2187株は、副生Gly(80 g/L)および酵母エキス(10 g/L)を含む培地(初発pH6.0)中で、25°C、200 rpmで48時間培養することにより、乾燥菌体重量当たり55.2%までTGを菌体内に蓄積する。培養1日当たりのTGの生産性は7.9 g/L で、代表的な油糧酵母Rhodosporidium toruloidesよりも生産性が高い(表1)。
  • TYC-2187株のTGの脂肪酸組成は、ミリスチン酸(0.8%)、パルミチン酸(20.7%)、パルミトレイン酸(1.6%)、ステアリン酸(7.5%)、オレイン酸(36.2%)、リノール酸(30.7%)およびリノレン酸(2.3%)から構成される(図2)。
  • TYC-2187株のTGの脂肪酸組成から算出されるヨウ素価は92で、セタン価は54である。TYC-2187株のTGの構成脂肪酸は、廃食用油を原料とした場合と同様に、「揮発油等の品質の確保等に関する法律」で定めるJISの3項目の規格(リノレン酸含量(≦12%)、ヨウ素価(熱的・化学的安定性指標、≦120)、セタン価(着火性指標、≧51))すべてに適合すると示唆される(表2)。

成果の活用面・留意点

  • P. parantarcticaは、製パン・醸造用酵母Saccharomyces cerevisiaeと同様にバイオセーフティーレベル1に該当する。TYC-2187は北海道農業研究センターで保有しており、所内規定に基づく手続きを経て分譲可能である。
  • TYC-2187株は、グリセリンを含むバイオエタノール蒸留廃液でも培養でき、TGの蓄積が可能である。また、セルロース系バイオマスの糖化液に含まれるグルコースおよびキシロースの他、スクロースおよびラクトースの資化性を有することから、テンサイ糖蜜やチーズホエーも増殖炭素源として利用できる。

具体的データ

図1、表1~2

その他

  • 中課題名:セルロース系バイオマスエタノール変換の高効率・簡易化技術の開発
  • 中課題整理番号:220c0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:高桑直也
  • 発表論文等:Takakuwa N. et al. (2013) J. Oleo Sci. 62(8):605-612