ナス科対抗植物の短期間栽培によるジャガイモシストセンチュウ密度低減
要約
ナス科のSolanum peruvianumまたはハリナスビを、休閑緑肥として初夏に1kg/10a播種して60~80日間栽培すると、圃場のジャガイモシストセンチュウ密度は20%以下に低減し、中密度以下の圃場であれば要防除水準(10卵/1g乾土)以下になる。
- キーワード:ジャガイモシストセンチュウ、Solanum peruvianum、ハリナスビ、耕種的防除
- 担当:環境保全型防除・生物的病害防除
- 代表連絡先:電話 011-857-9260
- 研究所名:北海道農業研究センター・生産環境研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
北海道の畑作地帯で大きな被害をもたらしているジャガイモシストセンチュウGlobodera rostochiensis(以後PCNと表記)に対して、低コスト・環境調和型防除資材の利用技術の開発が求められている。トマト野生種の一種であるSolanum peruvianum(以後ペルビアナムと表記)とハリナスビSolanum sisymbriifoliumは、休眠中のPCN卵を一斉にふ化させるが、根に侵入した幼虫を成虫まで成長させないため、PCN卵密度を40~90%低下させることが確認されている。両種はPCNに対する対抗植物(捕獲作物)として有望であるが、90日以上の栽培期間が必要とされ、圃場に落ちた種子による雑草化や後作への影響が問題となる。そこで、これらナス科対抗植物の栽培期間を結実前の60~80日程度に短縮した場合のPCN密度低減効果と、機械播種による輪作体系への導入について検討する。
成果の内容・特徴
- 北海道のPCN発生圃場にペルビアナムまたはハリナスビの種子1kg/10a相当を6月中旬~7月上旬に播種し、休閑緑肥として60?80日間栽培すると、PCN卵密度は栽培前の20%以下に低減する。PCNの発生程度が乾土1gあたり50卵程度の中密度であれば要防除水準である乾土1gあたり10卵以下まで減少する(図1)。
- 大規模栽培の場合、ドリルシーダーまたはブロードキャスターで化成肥料(N、P、K各8~10kg/10a相当)と同時に播種し、播種直後に鎮圧すると、良好な発芽・生育とPCN密度低減効果が得られる(表1)。
- 雑草が多いとナス科対抗植物の生育量が確保できず、短期間栽培でのPCN密度低減効果が得られないことがあるので、雑草の多発圃場では雑草対策が必須である(表2)。
- 上記栽培法であれば、ナス科対抗植物が開花しても果実は成熟前に刈り取られ、翌年の発芽は見られない。また、栽培終了後には秋まき小麦が栽培できる。
- ナス科対抗植物の導入コストは増収益分を上回り、一般のバレイショ栽培では短期的なコスト面のメリットはないが、新規発生圃場における早期根絶や侵入予防等に利用することで、地域全体の長期的な減収回避効果が期待できる(表3)。
普及のための参考情報
- 普及対象:バレイショ生産農家
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:北海道のジャガイモシストセンチュウ発生地域の100ha
- その他:
1)ナス科対抗植物は青枯病に弱いので多発圃場での利用は避ける。短期間栽培での被害は少ないものの、ペルビアナムは疫病に罹病するので周辺バレイショ圃場の疫病防除を確実に行う。
2)ナス科対抗植物の種子は北海道でも越冬して発芽するので、必ず果実の成熟前に栽培を終えること。
3)本法の利用に当たっては農研機構ホームページに掲載予定の「ナス科対抗植物栽培管理マニュアル」を参照する。
具体的データ
その他
- 中課題名:生物機能等を活用した病害防除技術の開発とその体系化
- 中課題整理番号:152a0
- 予算区分:交付金、その他外部資金(レギュラトリーサイエンス)
- 研究期間:2011?2014年度
- 研究担当者:伊藤賢治、奈良部孝、佐久間太(雪印種苗(株))、相場聡、臼木一英、古川勝弘(道総研北見農試)、小野寺鶴将(道総研北見農試)
- 発表論文等:伊藤、奈良部(2012)北日本病虫研報、63:157-159