イネ転移因子マイクロアレイを用いた低温鈍感力評価法

要約

穂ばらみ期耐冷性の強いイネは、耐冷性の弱い品種と比べて、低温処理後の葯における転移因子配列の発現変動が小さい。これを指標として、イネ品種の低温鈍感力(低温に過敏に反応しない能力)を定量的に評価することができる。

  • キーワード:イネ、低温鈍感力、穂ばらみ期耐冷性、転移因子、マイクロアレイ
  • 担当:作物開発・利用・稲遺伝子利用技術
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・寒地作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネ(Oryza sativa L.)には反復性転移因子が存在し、ゲノムの約35%をも占めている。転移因子の種類は多様で、低温などのストレスに反応して転写が誘導されることが知られている。そこで本研究では、転移因子マイクロアレイを新たに構築し、イネ品種の低温過敏性・鈍感性を転移因子配列の発現レベルで定量的に評価する方法を開発するとともに、これらと穂ばらみ期耐冷性との間の関係を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • イネの遺伝子と転移因子(MITEs・トランスポゾン・レトロトランスポゾン)配列をプローブとして新規に作成した転移因子マイクロアレイを用いることにより、イネ穂ばらみ期の葯におけるゲノム全体の低温感応性を解析することができ、「ほしのゆめ」のように低温による発現変動が小さい、すなわち低温に鈍感な品種と「日本晴」のように低温による発現変動が大きい、すなわち低温に敏感な品種があることが分かる(図)。
  • この解析によって得られたデータから、低温処理1日区と無処理区との間のR2値(決定係数)を算出し、この値と低温処理後の花粉稔性との間の相関関係を調べると、全プローブを対象とした場合には、R2値と花粉稔性との間に有意な相関関係は認められない(表)。
  • プローブを配列の種類別にしてR2値低温処理後の花粉稔性との間の相関係数を調べると、遺伝子とトランスポゾンでは花粉稔性と有意な相関関係が認められないが、MITEsとレトロトランスポゾンでは、花粉稔性とそれぞれ、0.937および0.914と有意で高い相関関係が認められる(表)。したがって、MITEsとレトロトランスポゾンの発現変動は耐冷性と負に連動した低温応答性を示す。すなわち、耐冷性の弱い品種では、MITEsとレトロトランスポゾンの低温による発現変動が大きく、耐冷性の強い品種では低温による変動が小さい。この変動の大きさを指標として、穂ばらみ期耐冷性と相関のあるイネ品種の低温鈍感力(低温に過敏に反応しない能力)を定量的に評価することができる。

成果の活用面・留意点

  • MITEsとレトロトランスポゾンの発現変動を指標として、低温以外の環境ストレスに対しても過敏性・鈍感性を定量的に評価できる可能性がある。
  • 本研究でマイクロアレイ化した転移因子の塩基配列情報は、Oryza Repeat Database (http://rice.plantbiology.msu.edu/annotation_oryza.shtml)およびRetrOryza (http://retroryza.fr/)で入手できる。
  • 本研究で新規に作成した転移因子マイクロアレイは、本研究担当者との間で共同研究あるいは協定研究を締結することにより、アジレント・テクノロジー社より購入可能となる。

具体的データ

図、表

その他

  • 中課題名:次世代高生産性稲開発のための有用遺伝子導入・発現制御技術の高度化と育種素材の作出
  • 中課題整理番号:112c0
  • 予算区分:競争的資金(農食事業)、その他外部資金(その他)
  • 研究期間:2010~2014年度
  • 研究担当者:佐藤裕、藤野介延(北海道大農)、貴島祐治(北海道大農)
  • 発表論文等:Ishiguro S. et al. (2014) Plant Physiol. 164(2):671-682