新たに同定したイネのアブシジン酸合成に関わるキサントキシン脱水素酵素遺伝子

要約

新規に同定したイネのキサントキシン脱水素酵素遺伝子産物は、ABA合成酵素としての活性を持ち、植物体内でのABA蓄積、発芽抑制および水分損失抑制機能を持つ。

  • キーワード:イネ、ABA合成酵素遺伝子、キサントキシン脱水素酵素、発芽、水分損失
  • 担当:作物開発・利用・稲遺伝子利用技術
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・寒地作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

アブシジン酸(ABA)は、植物が環境の変化に応答して環境ストレス耐性を向上させる過程で重要な役割を担う植物ホルモンである。しかしながら、過剰なABAの蓄積は、花粉不稔や生育遅延などの原因にもなっており、イネ(Oryza sativa L.)の耐冷性の向上のためには、ABAの蓄積を最適化する必要性がある。そのためにはイネのABA合成酵素遺伝子を全て単離・同定する必要があるが、そのひとつであるキサントキシン脱水素酵素遺伝子については、シロイヌナズナにおいてのみAtABA2として単離・同定されているだけで、イネを含む他の植物では未同定である。そこで、本遺伝子を単離・同定し、ABA合成酵素遺伝子としての機能を持つことを証明する。

成果の内容・特徴

  • アミノ酸配列に基づいて作成した系統樹において、シロイヌナズナのAtABA2と最も類似性の高いイネのホモログOs03g0810800OsABA2と名付け、この組換えタンパク質を合成してキサントキシン脱水素酵素活性を解析すると、基質(キサントキシン)からアブシジンアルデヒドを合成する活性を示す(図1)。
  • AtABA2欠損によってABAが蓄積されなくなったシロイヌナズナ突然変異系統aba2-2OsABA2を導入して過剰発現させると、形質転換系統は野生型と同等の生育を示し(図2A)、植物体内にABAを蓄積できるようになる(図2B)。したがって、OsABA2は植物体内でABA合成酵素遺伝子として働いてAtABA2欠損を相補することで、突然変異体の生育異常を正常状態に回復させる。
  • aba2-2では、パクロブトラゾールによってジベレリン生合成が阻害されても、ABAが蓄積されていないために発芽が抑制されないが、aba2-2OsABA2を導入して過剰発現させた形質転換系統では、野生型と同様にパクロブトラゾールによって発芽が抑制される。したがって、OsABA2は、植物体内でABA合成酵素遺伝子として働くことによって、発芽を抑制する(図3A)。
  • 発芽後4週間生育させたシロイヌナズナのシュートを切り出して放置したときの水分損失率は、aba2-2で著しく高く、3時間放置で80%の水分を失うが、aba2-2OsABA2を導入して過剰発現させた形質転換系統では野生型と同等に低く、3時間放置後の水分損失率は40%に留まる(図3B)。したがって、OsABA2は、植物体内でABA合成酵素遺伝子として働くことによって、植物の蒸散を抑制する。

成果の活用面・留意点

  • プロモーターの改変等によりOsABA2の発現量を変えることでイネのABA合成能力を調整することによって、イネの低温下での生育や花粉稔性を向上させるための研究に資することができる。
  • イネでのOsABA2の過剰発現あるいは発現抑制の効果については、実験を行っていない。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:次世代高生産性稲開発のための有用遺伝子導入・発現制御技術の高度化と育種素材の作出
  • 中課題整理番号:112c0
  • 予算区分:競争的資金(農食事業)、その他外部資金(その他)
  • 研究期間:2010~2014年度
  • 研究担当者:佐藤裕、遠藤亮、南原英司(トロント大)
  • 発表論文等:Endo A. et al. (2014) J. Plant Physiol. 171(14):1231-1240