コムギのクラスI、クラスII低温ショックドメインタンパク質は低温応答に関与する

要約

コムギには3クラスの低温ショックドメインタンパク質が見出される。クラスI、IIは分裂組織に蓄積し、低温により顕著に誘導される。クラスIIIは種子特異的に検出される。クラスI、IIのクラウン組織における蓄積は冬コムギで顕著である。

  • キーワード:コムギ、耐凍性、RNAシャペロン、低温ショック
  • 担当:作物開発・利用・麦・大豆遺伝子制御
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・寒地作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

小麦等冬作物の越冬形質の改良には耐凍性の向上が必要である。作物の耐凍性は低温への馴化により獲得されるが、その制御機構には不明な点が多い。これまでの研究で、耐凍性を制御する因子として低温ショックドメイン(CSD)タンパク質が同定されている。CSDタンパク質はRNAシャペロンとして、RNAの2次構造の解消において機能する。CSDタンパク質はシロイヌナズナにおいて一群の遺伝子の発現量を調節し、耐凍性を正に調節することが明らかになっている。本研究では、コムギにおけるCSDタンパク質ファミリーの存在を明らかにし、低温適応と深く関連するタンパク質を同定することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • コムギの発現遺伝子データベースには、WCSP1?WCSP4の4つの低温ショックドメイン(CSD)タンパク質が見出される(図1)。
  • WCSPはジンクフィンガー(ZF)およびグリシンリッチ(GR)ドメインの数によりクラスI(WCSP2)、クラスII(WCSP1、 WCSP3)、クラスIII(WCSP4)に分類される。
  • クラスI?IIIはポリアクリルアミドゲル上で、それぞれ20、23、27 kDの電気泳動度を示し、クラスI、IIは細胞分裂活性が高い組織に蓄積し、クラスIIIは種子特異的に蓄積する(図2)。
  • 低温処理により、クラスI、IIの蓄積が誘導されるが、葉においてはクラスIが、クラウンにおいてはクラスIIがより顕著に誘導される(図3)。
  • 低温適応力が低い春コムギのクラウン組織では低温に誘導される蓄積は見られない(図4)。

成果の活用面・留意点

  • WCSP1WCSP2WCSP3は耐凍性遺伝子の候補となる。
  • 遺伝子の効果の確定には形質転換体の作出が必要になる。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:ゲノム情報を活用した麦・大豆の重要形質制御機構の解明と育種素材の開発
  • 中課題整理番号:112g0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2007~2014年度
  • 研究担当者:今井亮三、Mariana Radkova、Pavel Vitamvas,佐々木健太郎
  • 発表論文等:
    1)Radkova M. et al. (2014) Plant Physiol. Biochem. 77:44-48
    2)今井、金(2014)生化学、86(4):474-478