ニンジンの香気特性の品種間差異とそれを形成する重要香気成分の特定

要約

官能評価により、ニンジン品種の香気特性の特徴付けを行うことができる。また、GC/MSによる香気成分の分析データから、官能特性値と関連が強い成分を明らかにできる。

  • キーワード:ニンジン、官能評価、QDA、GC/MS、メタボロミクス
  • 担当:総合的土壌管理・作物養分循環機能
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ニンジンの育種では香味、テクスチャーなどの官能特性が近年特に重要視されるようになった。ニンジンは好ききらいが顕著な作目であり、その嗜好性は独特の香気成分に起因すると考えられている。ニンジンの香気特性に寄与する成分が特定されれば、官能特性の簡易評価が可能となり、育種における選抜の効率化が期待できる。日本国内では黒田タイプの品種が多く流通しているが、食味特性に関して他のタイプと比較した報告はわずかである。そこで、官能評価(QDA:定量的記述法)とGC/MSによるメタボロミクスを利用し、14品種・系統のニンジンを対象として香気特性および香気成分の分析を行い、両者の品種間差異を明らかにするとともに香気特性形成のキーとなる香気成分群を特定する。

成果の内容・特徴

  • トレーニングを受けた専門パネルにより、ニンジン品種の香気の特徴付けを行うと、「フルーティー」、「青くさい」、「ツンとした」、「甘い」、「すえた」、「フレッシュな」、「インクのような」の言葉で表現される特性(評価用語)の強さで表現される。これに「全体的な香りの強さ」を加え、官能評価(QDA法)を実施すると、「青くさい」を除くすべての評価用語で有意な品種間差異が見られる(表1)。
  • ニンジン品種に対する各評価用語の強度に主成分分析を適用し、主成分スコアとローディング値をバイプロットすると、ニンジン品種の香気特性の分布とそれに対する評価用語の寄与が可視化できる。黒田タイプは、各評価用語のローディングに対して負の方向に分布しており、他のタイプの品種と比較して大部分の香気特性の強度が小さく、全体的な香りの強度も低い(図1)。
  • 官能評価と同一のニンジン試料についてGC/MSを用いて香気成分の分析を実施し、両者のデータをPLS回帰分析により解析することにより、官能特性値と関連が強い香気成分を特定することができる。「ツンとした」香りの特性はサビネンや酢酸ボルニルなどの成分と関連が強く(表2)、「インクのような」特性との関連も同様に高い(データ略)。

成果の活用面・留意点

  • サビネン等の簡易なターゲット分析は、香りの嗜好性の高い系統の選抜に利用できる。また、黒田タイプのニンジンはツンとした香りの少ない育種材料として有用である。
  • 評価に用いたニンジンは、北海道長沼町にあるホクレン農業総合研究所において6月~11月に栽培されたものである。播種日および施肥量は同様の条件とした。供試品種は生食用および加工用に用いられる国内外の商用品種および育成系統であり、黒田タイプは、日本で育成された生食用ニンジン系統である。

具体的データ

表1~2、図1

その他

  • 中課題名:メタボローム解析やエンドファイト利用による作物の養分循環機能活用生産技術の開発、寒地畑輪作における根圏の生物機能を活用したリン酸等養分の有効利用技術の開発
  • 中課題整理番号:151d0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010-2012年度
  • 研究担当者:岡崎圭毅、福田朋彦(ホクレン農総研)、信濃卓郎、岡 紀邦
  • 発表論文等:Fukuda T. et al. (2013) J. Food Sci. 78(11): S1800-1806