圃場の排水不良は暖候期に野良イモの生存率を低下させる

要約

深さ0.5 m までの飽和透水係数の最小値と野良イモの生存率の間に正の相関がある。過湿による野良イモ生存率の低下は、春先の融雪ではなく、暖候期の降雨による高土壌水分下での馬鈴薯塊茎の腐敗により引き起こされる。

  • キーワード:飽和透水係数、過湿、バレイショ、野良イモ、塊茎腐敗
  • 担当:気候変動対応・気象災害リスク低減
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

北海道道東地域では、気候変動により冬に土壌が深く凍結しなくなったことで、収穫後に取り残されたバレイショ塊茎が翌年に雑草化する「野良イモ」が問題になっている。野良イモの防除には、冬の除雪(雪割り)により地温を低下させ、バレイショ塊茎を凍死させる方法が有効である。一方、積雪による断熱効果によりバレイショ塊茎の死滅の条件である-3°Cに地温が到達しなくても、秋に圃場に残された塊茎の一部が生存せず野良イモ化しない場合がある。しかし、凍結以外の要因でバレイショの生存率が低下する原因については明らかにされていない。バレイショ塊茎腐敗の要因には、凍結の他、過湿の影響が考えられる。そこで、過湿に影響を与えると考えられる土壌物理性と野良イモ生存率の関係を、十勝地域の8箇所の農家圃場から得られたデータから調査する。また、過湿により野良イモが死滅する時期について、室内試験により明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 地温の低下により冬に野良イモが死滅したと考えられる圃場と、表層土壌の透水性が良好にもかかわらず排水が不良と判断された圃場を除くと、深さ50cmまでで最も飽和透水係数が低い土層の値と野良イモの生存率との間に強い正の相関関係が認められる(図1左)。飽和透水係数は圃場の排水性に最も影響を与えるパラメータの一つであるため、この結果は排水不良の圃場ほど野良イモの被害が少ない傾向があることを意味する。
  • 飽和透水係数と同様に、作土層の水分環境に大きな影響を与えると考えられる表層の間隙率・粗間隙率と野良イモ生存率の関係を調べたところ、有意な関係は認められない(図1右;間隙率と野良イモ生存率の相関係数=0.17;粗間隙率と野良イモ生存率の相関係数=0.05)。このことから、過湿による野良イモ生存率の低下には、土層の透水性が最も寄与していると考えられる。
  • 融雪期ならびに消雪後の高水分土壌条件を模擬した、0°Cで2週間、6°Cで1週間の培養条件では、飽和状態でも全てのバレイショが生存した。一方、暖候期の5~7月の降雨後の高水分土壌条件を模擬した、15°Cで1週間の培養条件では、飽和土壌中のバレイショ塊茎は全て腐敗した(図2)。これらの結果から、土壌が過湿になることで野良イモが死滅する時期は、春先の融雪期・消雪後の高水分状態のときではなく、暖候期の高土壌水分状態のときであることがわかる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は凍結以外の原因でバレイショ塊茎が死滅することを示すものであり、冬期の低温以外の野良イモの生存率低下要因解明のための基礎的知見である。
  • 本試験で示したデータは、十勝地域の新得町・士幌町・更別町・大樹町の黒ボク土と沖積土の農家圃場における2年間の試験結果をまとめたものである。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:気象災害リスク低減に向けた栽培管理支援システムの構築
  • 中課題整理番号:210a3
  • 予算区分:交付金、その他の外部資金(その他)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2010~2014年度
  • 研究担当者:岩田幸良、廣田知良、矢崎友嗣(北海道大)、鈴木剛(道総研)、岩崎暁生(道総研)、井上聡、臼木一英
  • 発表論文等:Iwata y. et al. (2015) Soil Sci. Plant Nutrition. 印刷中 DOI:10.1080/00380768.2014.982491