小規模酒造業者の輸出促進に向けた現地営業活動の組織的支援

要約

小規模酒造業者は輸出拡大を目的に、新規顧客開拓がのぞめるワイン販売会社等の販社と取引する。ただ、それらの販社は清酒の理解度が低く、業者には販社の理解醸成を図る現地営業活動が負担になるため、これを軽減する関係機関の組織的支援が重要である。

  • キーワード:清酒、酒造業者、輸出、現地営業活動、小規模業者
  • 担当:経営管理システム・ビジネスモデル
  • 代表連絡先:電話011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・水田作研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

清酒はわが国で輸出が促進されている食品の1つで、大量生産に不向きな特定名称酒の米国等への輸出量が伸びており、現地では飲食店など実需者へ浸透し始めている。国内の清酒消費量や主産地(兵庫県、京都府)大企業を主とする未納税取引が減少するなか、輸出は他地域の大小酒造業者(以下「業者」、業者数割合99%)の販売量を回復する機会といえる。だが、それら業者は、輸出拡大を進める大規模業者(販売量1千KL超~1万KL以下層)と停滞がうかがわれる小規模業者(100KL超~1千KL以下層)に分化しているため、後者の輸出促進が必要とされる。そこで、各地の小規模ながら輸出量割合の高い3社における米国販売の実態を大規模2社と比較し、F県酒造組合の小規模業者を含む輸出支援から、輸出促進に向けた現地販売の課題と支援策を提示する。

成果の内容・特徴

  • 現地販売の推進には、実需者への販売促進を担う販社が広域販売網を形成し、実需者へ製品の風味や味わいをアピールする対策が必要である。そのため、実需者だけでなく販社が、清酒自体への知識を持っていることがポイントとなる(図1)。
  • 販社における清酒の理解度が低い場合、業者は現地営業活動で理解を促す必要がある。主原料、吟醸酒や純米酒等の種類・製法、熱燗や冷酒等の飲み方の情報が重要である。
  • 米国販売で、大規模業者は清酒の豊富な知識と広い販売網を持つ日系商社系の販社等を選ぶため、業者の現地営業活動は飲食店対象の試飲・試食会、清酒セミナーが多い。ただ、日系商社系の販社は大規模業者の製品取扱量が多い。小規模業者は新規顧客開拓のため、清酒の販売経験は少ないがそれらとは別の販路を持つワイン販売会社とも取引し、実需者に加え清酒の知識の少ないワイン販売会社へも営業活動を行う(表1)。
  • 販社への現地営業活動が必要な場合、業者の労力的、経済的負担の増大が課題になる。小規模業者は実需者と販社両方へ営業活動を行うため、大規模業者より多くの営業日数(C、D社)や、ワイン販売会社の従業員教育など販売促進に関する助言や活動支援を担う現地コンサルタント(E社)が必要となっている(表2)。
  • 全国の総輸出量に占めるF県の輸出量割合は2012年の10%(1,375KL)から2013年には11%(1,715KL)に増えているが、この間、F県酒造組合は国際商談会出展と現地試飲会を継続し、醸造研究者のセミナーと不参加業者の製品PRも行っている(表3)。特に小規模業者の現地営業活動の負担軽減には、このように関係機関が清酒の理解を促進するための組織的支援(セミナーと合同の試飲・試食会、商談会等)を行う必要がある。

成果の活用面・留意点

  • 小規模酒造業者の輸出推進策を検討する際の参考になる。
  • 清酒の国内販売を中心に輸出を行う業者の支援策である。輸出事業に特化した業者、輸出がごく少ないとみられる販売量100KL以下の業者には、別の対策が必要である。

具体的データ

その他

  • 中課題名:地域農業を革新する6次産業化ビジネスモデルの構築
  • 中課題整理番号:114b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2015年度
  • 研究担当者:澁谷美紀、細山隆夫
  • 発表論文等:澁谷(2015)フードシステム研究、22(3):323-328