放牧飼養により牛乳中のシアル酸濃度が増加する

要約

機能性成分の主要構成要素であり、牛乳中では複合糖質の構成糖として存在するシアル酸の濃度は、放牧された搾乳牛の食草時間と正の相関を示す。また、舎飼いから昼夜放牧に切り換え後11日以降にその増加が有意となる。

  • キーワード:牛乳、放牧飼養、シアル酸、複合糖質、機能性
  • 担当:自給飼料生産・利用・草地活用乳生産
  • 代表連絡先:電話011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・酪農研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

国内乳生産の約50%を担う北海道では、輸入飼料の供給不安や激しい価格変動を緩和するため、広大な草地資源を活用し、経済的で安全・安心な自給飼料の一つである放牧草の利用を推進する必要がある。一方、放牧牛乳については、その特徴的な成分としてβ-カロテンや脂肪酸、とくに共役リノール酸、揮発性香気成分に関する報告はあるが、その他の成分に対する詳細な検討は行われていない。そこで、感染防御作用などに関与する種々の複合糖質(図1)を構成するシアル酸を対象に、放牧飼養による乳中濃度の動態について検証する。

成果の内容・特徴

  • 1日4、8、20時間の放牧飼養(グラスサイレージと配合飼料も給与)を各1週間行うと、乳中シアル酸濃度は、舎飼い飼養(放牧飼養0時間でグラスサイレージと配合飼料を給与)の場合に対して、いずれの放牧時間でも有意に増加する(図2)。
  • 1の結果をもとに、放牧地における搾乳牛の食草時間(平均推定値)と乳中シアル酸濃度の関係をみると、有意な正の相関が認められる(図3)。
  • 飼養方法との関係では、乳中シアル酸は、舎飼いから放牧(昼夜放牧)への切り換え後有意(p<0.05)に増加する(図4)。また、放牧から舎飼いへの切り換え後には減少する傾向(p=0.06)がある。
  • 乳中シアル酸は、舎飼いから放牧飼養へ切り換え後11日目以降で有意(p<0.05)な増加に至る(図4)。

成果の活用面・留意点

  • シアル酸の一種であるN-アセチルノイラミン酸は、チーズ製造や免疫機能に関わる糖タンパク質や糖脂質であるκカゼイン、ラクトフェリン、ガングリオシドなど複合糖質中糖鎖の一部として存在する。本成果から、これらの複合糖質は放牧飼養により増加するものと考えられ、放牧牛乳およびそれを原料とする乳製品において特徴を活かした乳製品製造につながる可能性がある。
  • 牛乳中シアル酸濃度は、1日2回搾乳した生乳サンプルを乳量比に応じて合乳した後に20倍希釈し、レゾルシノール過ヨウ素酸法によりN-アセチルノイラミン酸を標準品として測定している。

具体的データ

その他

  • 中課題名:草地の高度活用による低コスト乳生産と高付加価値乳製品生産技術の開発
  • 中課題整理番号:120d1
  • 予算区分:交付金、委託プロ(収益力向上)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2010~2015年度
  • 研究担当者:朝隈貞樹、上田靖子、秋山典昭、宮地慎、中村正斗、浦島匡(帯畜大)
  • 発表論文等:Asakuma S. et al. (2010) J. Dairy Sci. 93(10):4850-4854