モンスーンインデックスと冬季気温を利用した農業雪害推定

要約

モンスーンインデックスと冬季気温を変数として、パイプハウス骨組み倒壊に影響する最深積雪と、小麦雪腐病の発生に影響する長期積雪期間の推定式を、岩見沢および周辺地域を対象に開発した。これらの推定式は、農業雪害の被害推定や予測に有用である。

  • キーワード:最深積雪、長期積雪期間、雪腐病、モンスーンインデックス
  • 担当:気候変動対応・気象災害リスク低減
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2011年から2012年にかけての寒候期(以後、2012年とする)、岩見沢など北海道南空知地方に降積雪が集中した。その結果、パイプハウスでは被覆資材を外していたにもかかわらず、積雪深が骨組みの肩を大きく超えたため、雪の沈降力により骨組みが変形し多数の倒壊被害があった。秋播き小麦では、暗黒・低温・湿潤な積雪下環境の長期化により、雪腐病の被害が大きかった。この大雪は、強い西高東低の冬型気圧配置が生じて季節風が強まったこと、偏西風の蛇行によって寒気が南下し低温になったこと、が原因とされている(気象庁,2012)。この両者を気象的に表現する変数を説明変数とする重回帰分析によって、最深積雪および長期積雪期間の推定式が得られれば、雪害推定予測が可能となる。

成果の内容・特徴

  • シベリア高気圧としてロシア・イルクーツク付近、アリューシャン低気圧として根室付近のNCEP/NCARの大気再解析気圧データを用いて、12月から2月までの月平均気圧差平均値から西高東低の強さを示すモンスーンインデックス(MOI)を計算する。また、岩見沢特別地域気象観測所気温での12月から2月までの月平均気温平均値(AT)を計算する。近年の気候ジャンプを考慮し、解析期間を1990年から2012年までとする。最深積雪、長期積雪期間、MOI、ATの年々変動(図1)を見ると2006年、2012年の大雪年は冬型・低温の2条件が揃っている。またMOI、ATに多重共線性はない。
  • 得られた最深積雪の重回帰式は、次式の通りである。
    Y1 = 2.7 X1 -16.8 X2 + 7.3 (1)
    ただしY1:最深積雪(cm)、X1:MOI(hPa)、X2:AT(°C)。R2=0.51:1%有意。
    得られた長期積雪日数の重回帰式は、次式の通りである。
    Y2 = 1.3 X1 -11.5 X2 + 56.8 (2)
    ただしY2:長期積雪日数(日)、X1:MOI(hPa)、X2:AT(°C)。R2=0.64:1%有意。
  • 推定式より作成した最深積雪推定図を用いると、MOI、ATからパイプハウス倒壊の被害発生が推定できる。なお、パイプハウスの肩を越す位置は150cmである(図2)。
  • 推定式より作成した長期積雪期間推定図を用いると、MOI、ATから雪腐病の甚大な被害発生が推定できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 岩見沢での最深積雪および長期積雪期間を目的変数とした重回帰分析のため、本推定式の適用地域は北海道南空知地方となるが、冬季季節風によって降雪を生じる日本海側では、同様の解析手法が利用可能であると考えられる。
  • 長期積雪期間は本来、有人気象官署の目視観測記録であるが、岩見沢では並行観測期間で積雪深計記録と一致したため、無人化(2007年)以降は積雪深計記録を代用する。
  • 2012年冬の各月のMOI、ATは、12月(22.162,-3.9)、1月(23.229,-7.1)、2月(19.151,-6.2)であり、強い冬型かつ低温で推移した。予報を活用して、MOIやATの推移を監視できれば、雪害対策に活用できる。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:気象災害リスク低減に向けた栽培管理支援システムの構築
  • 中課題整理番号:210a3
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:井上聡、廣田知良、濱嵜孝弘、根本学
  • 発表論文等:井上ら(2014)北海道農研研報、203:15-22