草本系バイオマス作物の育種素材としてのオギ遺伝資源の探索収集とその特性

要約

北海道から九州までの河川敷等の湿潤な環境を中心に、平野部から山間地まで多様な環境に自生するオギ栄養体304点を探索収集、保存している。出穂始日や形態的特性について系統間に変異がみられ、ススキとの新たな種間雑種作出の母材として利用できる。

  • キーワード:オギ、遺伝資源、草本系バイオマス、ミスカンサス
  • 担当:バイオマス利用・資源作物生産
  • 代表連絡先:電話011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・酪農研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ジャイアントミスカンサス(Miscanthus. x giganteus)は、オギ(M. sacchariflorus、四倍体、地下茎型)とススキ(M. sinensis、二倍体、株型)の種間雑種(三倍体)で、欧米で乾物収量が高いことが明らかになり、わが国でも越冬性が重視される寒地および寒冷地において、省力的・持続的に生産可能なバイオマス資源作物として有望視されている。三倍体雑種は、不稔であることから種子の拡散による雑草化の恐れが無く、生態・環境への影響が小さい。既存のジャイアントミスカンサスは、温暖地由来の一遺伝子型のみであることから、寒地および寒冷地での収量性や耐寒性に優れる系統を作出する必要がある。また、雑種の片親であるオギは、近年の河川改修などにより自生地が失われつつある。そこで、三倍体雑種作出のための育種素材として、日本各地に自生する貴重な遺伝資源であるオギを探索・収集し、育種素材としての特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 北海道から九州に自生するオギ遺伝資源304点を探索・収集し、栄養体保存している(図1)。
  • オギは、河川敷や湖沼の周辺など湿潤な場所に自生し、路傍や耕作地周辺など比較的乾燥した場所にも自生する(表1)。オギは、各地域の平野部を中心に、海岸付近(標高0m)から標高約600~1200mの山間地まで自生する(表1)。北海道の寒冷な地域から本州太平洋側の温暖な地域まで自生し、年間降水量が約700~3500mmの多様な環境に自生する。
  • 北海道、青森および山形のオギの出穂始日は、北海道農研(札幌市)の気象条件下では8月中旬から9月下旬まで約6週の変異幅がある(図2)。北緯43~45度付近で収集した北海道の系統は8月中~下旬に出穂し、北緯38度付近で収集した山形の系統は9月下旬に出穂することから、南の系統ほど出穂始が遅い傾向がみられる。
  • 北海道から収集したオギの特性を地域ごとに比較すると、草丈は、95-234cmの変異幅があり、道東の系統は平均149cmで草丈が低い(表2)。葉身長は、道南の系統が平均46cmで長い。稈径は、地域間の差異は小さいが、全体で1.0-3.0mmの変異幅がある。北海道内の系統間で、形態的特性に変異がみられる。草丈2m以上の大型の系統は、バイオマス作物の育種素材として有望である。道東の土壌凍結地帯で収集した系統は、耐寒性改良の育種素材として有望である。

成果の活用面・留意点

  • オギ遺伝資源は、農業生物資源研ジーンバンクにアクティブコレクションとして登録されている。各サブバンクから栄養体を配布可能である。
  • 一部の遺伝資源については、農業生物資源研ジーンバンクのホームページ(http://www.gene.affrc.go.jp/databases-plant_search.php)で特性データが検索できる。
  • オギとススキを交雑し、新規三倍体雑種系統を作出するための母材として利用できる。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:セルロース系バイオマス資源作物の作出と低コスト生産技術の開発
  • 中課題整理番号:220a0
  • 予算区分:交付金、その他外部資金(ジーンバンク)
  • 研究期間:2009~2015年度
  • 研究担当者:眞田康治、小路敦、田村健一、奥村健治、藤森雅博、秋山征夫、久保田明人、山下浩、上床修弘、我有満
  • 発表論文等:
    1)Yamashita et al. (2010) Ann.Rep.Expl.Intr.Plant Gen.Res. 26:58-64
    2)山下ら(2011)植探報、27:69-75
    3)眞田ら(2012)植探報、28:113-123
    4)眞田ら(2013)植探報、29:83-97
    5)藤森ら(2013)植探報、29:99-105
    6)眞田ら(2014)植探報、30:81-91
    7)藤森ら(2014)植探報、30:93-99
    8)眞田ら(2014)日草誌、60:118-123