ススキ-オギ種間雑種の大規模自生集団の発見と集団構造の解析

要約

鹿児島県麓川沿いには約2.8 kmにわたりススキとオギの三倍体種間雑種が自生している。本集団は4つの遺伝子型で構成され、2つの遺伝子型が大半を占める。遺伝子型毎にまとまった地理的分布を示し、遺伝子型により有芒率や花粉稔性が異なる。

  • キーワード:ススキ、オギ、種間雑種、集団解析
  • 担当:バイオマス利用・資源作物生産
  • 代表連絡先:電話011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・酪農研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

二倍体ススキ(Miscanthus sinensis)と四倍体オギ(M. sacchariflorus)の三倍体種間雑種は高い収量性からバイオマス資源作物として期待されており、その遺伝資源の探索収集は育種にとって重要な手段の一つである。遺伝資源を探索収集する上において、対象種の自然界における生態や集団構造に関する理解は極めて重要だが、ススキ?オギ種間雑種についてはほとんど情報がない。そこで、本研究では推定三倍体雑種個体が収集された鹿児島県麓川周辺を調査し、三倍体雑種集団の自生範囲と集団構造を解明する。併せて、それらの遺伝資源としての特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 鹿児島県肝属郡錦江町麓川沿いには約2.8 kmにわたり、オギのように地下茎を有するが、オギと異なりススキのように一部の小花に芒を有する中間的な形態を示す集団が存在する(図1、2)。この範囲は河川改修による直線化の範囲に一致し、河川沿いの田畑や道路の周辺にもこれらの群落が存在する。周辺にはススキは存在するが、オギは発見できなかった。核DNA量の定量、染色体観察、ススキ-オギ種特異的DNAマーカーによるジェノタイピングにより、この集団はススキとオギの三倍体雑種であることがわかる(図3)。
  • 114サンプルについて単純反復配列(SSR)マーカーによりジェノタイピングを行った結果、この集団は少なくともA(n = 63)、B1(n = 47)、B2(n = 2)、C(n = 2)の4つの遺伝子型で構成され、うちA型およびB1型が大半を占めることがわかる(図2)。B1型とB2型はそれぞれに特異的な1DNA断片により区別される。また遺伝子型ごとにまとまった地理的分布を示す(図2)。葉緑体ゲノムの遺伝子間領域の解析から、種子親はオギであると推察される。
  • B1型はほとんどの小花に芒を有するが、それと比較しA型の有芒率は有意に低い。A型は73.2%の花粉稔性を示す一方、B1 型の花粉稔性は著しく低い(7.6%)。両遺伝子型とも種子稔性を有するが、その実生由来後代の核DNA 量は個体間の変動が大きく、その平均値は三倍体雑種相当よりも低い(表1)。
  • 以上より本雑種集団は、オギを種子親、ススキを花粉親とする複数組み合わせの交雑により生じた種間雑種個体が環境撹乱により根茎などの栄養体を介して分布を拡大し、形成されたことが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 花粉稔性の高い遺伝子型は種間移入交雑などのための母材として利用できる。
  • 本遺伝資源のバイオマス作物としての特性は未検定であるため圃場における評価が必要である。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:セルロース系バイオマス資源作物の作出と低コスト生産技術の開発
  • 中課題整理番号:220a0
  • 予算区分:交付金、その他外部資金(ジーンバンク)
  • 研究期間:2010~2015年度
  • 研究担当者:田村健一、上床修弘、山下浩、藤森雅博、秋山征夫、小路敦、眞田康治、奥村健治、我有満
  • 発表論文等:Tamura K. et al. (2015) Bioenerg. Res. DOI 10.1007/s12155-015-9683-1