トールフェスクの季節生産性にみられる遺伝変異と生育環境との交互作用

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

トールフェスクの栄養系及び品種・系統の季節生産性関連形質において、育種の場(熊本県西合志町)と利用の場(熊本県阿蘇町)で遺伝変異と生育環境との交互作用が認められた。また、交互作用が発現しやすい栄養系を由来品種・系統によって選定できる。

  • 担当:九州農業試験場・草地部・牧草育種研究室
  • 連絡先: 096-242-1150
  • 部会名: 草地・育種
                 九州、畜産・草地
  • 専門: 育種
  • 対象: 牧草類
  • 分類: 研究

背景・ねらい

トールフェスクは九州から北海道に至る多様な環境条件下で栽培されているので、広域適応性に優れた系統を育種する必要がある。栄養系や系統の適応性を評価するために、育種の場と代表的な利用の場で季節生産性にみられる品種・系統及び栄養系と試験地との交互作用について検討する。

成果の内容・特徴

標高約900mの阿蘇試験地(熊本県阿蘇町)は、同80mの九州農試(熊本県西合志町)よりも年平均気温が約4°C低く、年間降水量が約1.5倍(約3400mm)に達する。統計分析は、試験地を主試験区、品種・系統または栄養系及び年次を副試験区とする分割区法によって行い、品種・系統×試験地(以下、G×Lとする)及び品種・系統×年次×試験地(同、G×Y×L)の有意性を検定した。

  • 品種・系統の乾物収量(試験I)では秋季のG×L及び春~夏季のG×Y×Lで有意性が認められた(表1)。前者は越夏性、後者は永続性の変異が交互作用として発現していると考えられる。栄養系の乾物収量(試験II)では全ての季節で有意なG×L及びG×Y×Lが認められた。試験IIと別の栄養系の草勢においても有意な交互作用が検出された(試験III)。
  • 品種・系統の適応性は栄養系よりも高く、他殖性集団の緩衝効果が発現していると考えられる(表1)。
  • 乾物収量及び草勢が西合志で平均値以上を示した栄養系の82%(試験II)及び71% (試験III)が阿蘇でも平均値以上であった。西合志で優れた栄養系のうち、わが国及び米国の品種・系統に由来した栄養系の多くは阿蘇でもその優秀性が認められたが、その他の地域に由来した栄養系には阿蘇で不良であったものがみられた(図1)。このことから、わが国及び米国以外の品種・系統に由来する栄養系の評価については、阿蘇でも評価する必要であると結論される。

成果の活用面・留意点

  • 九州農試で選抜した育種材料のうち阿蘇試験地で交互作用が発現する可能性が高いものをその由来品種・系統から推定できる。
  • 交互作用が発現する栄養系が任意交配集団内で広域適応性に関与する機能を解明し、九州農試及び阿蘇試験地で効果的な適応性育種法を開発する必要がある。

具体的データ

表1 トールフェスク品種・系統及び栄養系の両試験地での乾物収量及び草勢における分散分析の平均平方

図1 トールフェスク栄養系の西合志および阿蘇における生長の散布図

その他

  • 研究課題名:トールフェスクの遺伝的変異と生育環境に関する要因解析
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成6年度(昭和62~平成6年)
  • 発表論文等:トールフェスク(Festuca arundinacea Schreb.)の出穂性及び季節生産
                      性にみられた遺伝子型と環境との交互作用、日草誌 40:149-156