水稲生育モデルを利用したトビイロウンカ吸汁加害の定量化

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要約

トビイロウンカの吸汁加害が水稲の葉面積、乾物生産および収量に与える影響を定量化するシミュレーションモデルを開発した。本モデルはトビイロウンカの加害量、加害時期および気象変動が水稲収量に与える影響を評価することができる。

  • 担当:九州農業試験場・地域基盤研究部・害虫管理システム研究室
  • 連絡先:096-242-1150
  • 部会名:病害虫
  • 専門:作物虫害
  • 対象:稲類
  • 分類:研究

背景・ねらい

トビイロウンカは東アジアの水稲生産における最重要害虫の1種である。本種は水稲の篩管液を選択的に吸汁することにより、水稲の乾物生産の低下、枯死を引 き起こす。これまでトビイロウンカの密度と減収量の関係を求めた研究例はあるが、気象条件、栽培条件あるいは加害時期の変化が被害量の変化に及ぼす影響は 解析されていなかった。トビイロウンカの総合的害虫管理を進めるうえで重要となるこれらの関係をシミュレーションモデルと野外実験により定量化する。

成果の内容・特徴

  • オランダワーゲニンゲン大学で作成された水稲生育モデルMACROS-L1Dを基本として、出穂後の葉面積と器官別乾物重の推移を記述するモデルを作成し た。モデル内の水稲群落の葉層を高さ別に同じ葉面積指数になるように5層に分け、トビイロウンカの吸汁の影響が、最下位葉層にのみ影響を及ぼす過程を導入 することにより、吸汁による乾物重の変化だけでなく枯死過程も記述することができる(図1)。
  • このモデルは、トビイロウンカの放飼時期を変化させた水田実験の対照区および放飼区の葉面積、乾物重の推移を再現することができる(図2)。
  • トビイロウンカの加害開始日を変化させたシミュレーションから、同じ加害量でも加害時期が早いほど減収量が増大することが予測できる(図3)。
  • 毎年の日射量と気温の実測値を用いて、トビイロウンカの加害による減収量をシミュレーションした結果、トビイロウンカの加害は水稲収量の年次間変動を増大させる方向に働くことが明らかとなった(図4)。

成果の活用面・留意点

  • トビイロウンカの加害量と加害時期、気象条件の変動を含めた被害予測が可能となる。
  • シミュレーションには、出穂日の葉面積、乾物重およびその後の気温、日射量のデータが必要である。また、本モデルは出穂期以降の加害と気象条件の子実重の変化に対する影響をシミュレーションするものであり、出穂前の影響は今後モデル化する必要がある。

具体的データ

図1 シミュレーションモデルのフローダイアグラム
図1 シミュレーションモデルのフローダイアグラム

 

図2 出穂日以降の子実重の変化の1例
図2 出穂日以降の子実重の変化の1例

 

図3 加害開始日を出穂日から5日ずつ変化させた場合の子実重変化
図3 加害開始日を出穂日から5日ずつ変化させた場合の子実重変化

 

図4 気温および日射量に実測値を用いた場合の子実重変化
図4 気温および日射量に実測値を用いた場合の子実重変化

 

その他

  • 研究課題名:イネウンカ類による水稲減収シミュレーションモデルの開発
  • 予算区分 :IRRI-日本シャトル研究、大型別枠(生態秩序)、経常
  • 研究期間 :平成8年度(平成4~8年)