不完全不妊虫放飼による害虫個体群抑圧の条件
※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。
要約
害虫個体群の根絶や密度抑圧を目的とする不妊虫放飼法において、完全不妊虫と不完全不妊虫のいずれを用いる方がよいかを判別できる実用的な判別式を開発した。
- 担当:九州農業試験場・地域基盤研究部・害虫管理システム研究室
- 連絡先:096-242-1150
- 部会名:総合農業(生産環境)・病害虫
- 専門:作物虫害
- 対象:昆虫類
- 分類:研究
背景・ねらい
放射線照射などの手段で不妊化した雄を大量放飼して害虫個体群の根絶や密度抑圧をはかる不妊虫放飼法には通常完全不妊虫が用いられる。しかし、一般に放飼
する雄の不妊化率と寿命・交尾競争力との間には負の相関があり、とりわけゾウムシ類では完全不妊化に必要な照射線量を受けた雄では著しい短命化と交尾競争
力低下がおこる。そこで、完全不妊虫放飼と、不妊化率は100%でないが虫質が優る不完全不妊虫放飼の害虫密度抑圧効果をモデルを用いて比較し、いずれを
用いるべきかを判別する不等式を開発する。
成果の内容・特徴
-
完全不妊虫と不完全不妊虫のいずれを放飼するかの判断は、完全不妊雄と不完全不妊雄の野生雄に対する交尾競争力、雌雄の妊性率、野外に放飼にした不妊雄数と野生雄数の比などの7つのパラメータから構成される判別式によって可能である(図1)。
-
雌雄をともに放飼する場合には雄だけを放飼にする場合にくらべて不完全不妊虫を放飼すべき条件(R:野生雄数と放飼雄数の比)が厳しくなり、とくに雌の妊性率が上昇するにつれてその条件は著しく狭くなる(図2)。
成果の活用面・留意点
-
判別式は放飼虫を決定するための実用的基準として使用でき、すでに鹿児島県におけるアリモドキゾウムシ根絶実証事業に活用されている。
-
野外に放飼した不妊雄数と野生雄数の比は、マークした不妊雄の放飼によりフェロモントラップを用いて推定できる。
-
野外における不完全不妊雄数と完全不妊雄数の比は直接測定することが困難なので、野外ケージ内に放飼した両者の平均寿命の比で代用する。
具体的データ

図1 放飼虫決定のためのフローチャート

図2 不完全不妊虫放飼がまさる野生雄数と放飼雄数の比(R)の上限値と放飼雌の妊性率(q)との関係
その他
- 研究課題名:個体群動態モデルによる環境保全型害虫管理理論
- 予算区分 :経常
- 研究期間 :平成8年度(平成6~8年)