平衡水温モデルによる暖地の水田水温の推定

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要約

平衡水温モデルをもとに、気象官署での気温、水蒸気圧、日射量の観測値から、その地域の水田水温を推定するモデルを開発した。このモデルと過去の気象資料を用いて、平年や異常気象年の水田水温を推定することが可能である。

  • 担当:九州農業試験場・生産環境部・気象特性研究室
  • 連絡先:096-242-1150
  • 部会名:総合農業(生産環境)、生産環境、水田作
  • 専門:農業気象
  • 対象:稲類
  • 分類:研究

背景・ねらい

水稲の生育や収量に直接影響を及ぼす気象要素として気温、水温、日射量があるが、水温は気象官署におけるルーチン観測が行われていない。そこで、気象官署での一般気象要素の観測値だけからその地域の水田水温を推定する方法を開発した。この方法と過去の気象資料を用いて、九州の代表的な稲作地域として西都(宮崎平野)、阿蘇(阿蘇盆地)、筑後(筑紫平野)を対象に、平年および異常気象年の水田水温を推定した。

成果の内容・特徴

  • 水田の熱収支式を基本とした平衡水温モデルにおいて、顕熱輸送係数やアルベドを葉面積指数の関数で表し、葉面積指数を作物生育モデル(Horie、1987)を用いて気温から求めることによって、気象官署での気温、水蒸気圧、日射量の観測値からその地域の水田水温を推定するモデルを開発した。水温の推定値と実測値は良く一致し、標準誤差は摂氏1.1度である。(図1、図2)
  • 平年の水温については、標高の高い阿蘇は他の2地域よりも低く、西都と筑後では水稲の繁茂している西都の方が低い。西都では3月の水温が平年でも摂氏15度を下回るほど低いため、水稲の初期生育に遅延が生じる危険がある。(図3)
  • 冷夏年(1993年)と暑夏年(1994年)の各旬における気温の平年偏差と水田水温の平年偏差との間には比例関係がみられる。冷夏年においては気温摂氏1度の低下は水温約摂氏1.0度の低下に相当し、暑夏年では気温摂氏1度の上昇が水温約摂氏0.6度の上昇に相当する。(図4)

成果の活用面・留意点

  • ここで開発されたモデルと気温、水蒸気圧、日射量のメッシュ気候値を用いることによって、水田水温のメッシュ化を図り、より詳細な水稲の作況解析を行うことができる。
  • モデルは平衡水温を対象とするため、漏水の激しい水田や水温の日変化の推定には適用できない。
  • 水田の水温と地温との間には高い相関があるため、この結果から地温を予測することも可能である。

具体的データ

図1 モデルによる平衡水温推定の模式図 図2 推定水温と実測水温との比較

 

図3 西都、阿蘇、筑後の水稲栽培期間における平年の水田水温の季節変化 図4 気温の平年偏差(△Ta)と水田水温の平年偏差(△Tw)との関係

その他

  • 研究課題名:圃場微気候の特性把握法の開発
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成9年度(平成7~11年)