九州における水稲品種別の水田蒸発散量特性

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要約

九州における水田用水量を把握するため,ミクロライシメータ法により得られた水稲品種別の水田蒸発散量を整理・情報化した。得られた水田蒸発散量は,品種間による差が小さく,過去の水稲品種の水田蒸発散量データと同程度である。また,気象データから水田蒸発散量を推定するための作物係数は1.21前後の値を示した。

  • 担当:九州農業試験場・生産環境部・気象特性研究室
  • 連絡先:096-242-1150
  • 部会名:総合農業(生産環境)・生産環境
  • 専門:農業気象
  • 対象:水稲
  • 分類:研究

背景・ねらい

水田の蒸発散量を明らかにすることは、栽培生理面のみあらず、水資源の効率的利用の観点からも重要な基礎的問題である。湿潤温暖地における水田農業用水の需要実態を把握するためには、九州地域で栽培されている主要な水稲品種の蒸発散量特性を明らかにする必要がある。水田蒸発散量(ET)は各水田中央部(5a)にミクロラ イシメータを1個設置して、減水深法から求め、各気象要素は熊本地方気象台のデータを用いた。なお、改良ペンマン法による基準蒸発散量(ETo)は「完全に地表に覆いかつ十分な給水を受け生育中の8~15cmの均一な青草の広い面からの蒸発散量」である。

成果の内容・特徴

  • 普通期水稲各品種の日水田蒸発散量の生育期間最大値は、8~10mmである。しかし、このような高い値は晴天日で、移流が卓越する日に限られる。生育期間の平均蒸発散量は5.3~5.8mm/日の間にあり、過去の得られた水田蒸発散量とほぼ同程度である(表1)。
  • 半旬別平均水田蒸発散量は、天候に左右されるが、品種による差は大きくなく、盛夏期に最大7~9mm/日の水田蒸発散量である。早期水稲コシヒカリの蒸発散量は5月中旬頃が4mm/日前後で、8月上旬に最大6mm/日の値である(図1)。
  • 1995年と1997年の品種別水田の期間蒸発散量は、測定期間中でそれぞれヒノヒカリが318.0mmと302.2mm、レイホウが330.9mmと308.3mm、ユメヒカリが345.1mmと305.1mmで、水稲品種間による大きな差はない。また、コシヒカリの水田蒸発散量は362.6mmである(表1)。
  • 作物の特性を示す作物係数Kc(=ET/ETo)の季節変化は1.0前後で大きく上下している(図2)。生育期間の作物係数平均値はレイホウが1.21、ユメヒカリが1.24、ヒノヒカリが1.14、コシヒカリが1.21で、年次による違いが少なく、東南アジアの乾期で得られた作物係数値に近い(表1)。
  • 純放射量(Rn)と日射量(Rs)を用いるP-Tモデル法と日射モデル法の係数αとaは、それぞれ1.31~1.54と0.89~1.00の範囲である。変動係数はそれぞれ31.0~39.0%、30.2~34.0%と大きいが、これまでに得られた値と同程度である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 水田蒸発散量を気候学的に推定するためのパラメータは温暖な平坦水田地帯で適用可能で、水田用水量評価のための基礎資料となる。
  • 蒸発散量の観測が行われた年次は気温、降水量はほぼ平年並よりやや高く、多い状態で経過した気象条件下である。

具体的データ

図1 半旬別平均日蒸発散量の変化(1996,1997年)
図1 半旬別平均日蒸発散量の変化(1996,1997年)

 

図2 作物係数の季節変化(1995年)
図2 作物係数の季節変化(1995年)

 

表1 各種モデルによる実蒸発散量推定のためのパラメーター
表1 各種モデルによる実蒸発散量推定のためのパラメーター

 

その他

  • 研究課題名:圃場微気候の特性把握法の開発
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成10年度(平成7~11年)